非常に身近なツールを題材にしながら、地方におけるローカル感とほのかな青春群像劇、相反するバトルの迫力で一時代を築いた公道レース漫画「頭文字D」をレビュー致します
かつての若者の最大の共通ツールだった車
バリバリ伝説でバイクを題材に描き一世を風靡した作者が次に選んだ題材は王道を行く車。それもサーキットではなく公道=峠を走る走り屋にスポットを当てた点が斬新だったもはや伝説となっている公道レースマンガ。
もはや藤原とうふ店というロゴやハチロクなどは、日本を飛び越えて世界的なアイコンにまでなった感もあります。
スラムダンクと同じで、主人公が車にまったく興味がないのに次第にそのセンスに目覚めていく流れや主人公の親父が実は劇中随一の超級のテクニックの持ち主で…と言うパワーバランスもうまい(笑)
数世代前の86が圧倒的ポテンシャルで、ハイスペックなライバルを次々に抜いていくというカタルシスもまた王道で、木製のドライバーでハイスペックなドライバーを持つプロのゴルファーを手玉に取るトリッキーな技を使いこなす「プロゴルファー猿」など一見アナクロなアイテムで凄まじいテクニックを見せるのはスポーツ漫画などではお馴染みの構図。
普段ぼーっとしている主人公像も新しかったかもしれません。それがひとたび専門分野や裏の顔としてのスペシャリストの面を見せると凄まじい変貌を遂げる。この構図も職業漫画や少年漫画、時代劇などでお馴染みの作風ですね。
つまり基本は日本人の好みな要素がたくさん詰まっているという以外に王道な漫画なのですよね。とはいえ、現実の走り屋自体は迷惑な行為だと思いますが(汗)
平成の時代の地方の若者のリアル。車という非日常ツールと祝祭性
それ以上に魅力的なのが地方におけるリアルな日常描写や青春マンガとしての積み重ねが絶妙なのですよね。地方にいる若者の10代-20代の日常から非日常へ繋がる憧れを日常的な道具でもある車を題材に描いているとも言えます。
バイト先で趣味談義に走っている流れだったり、隣県への遠征話だったり…これは別に車に限らず、題材がアウトドアでもミステリーでもバンドものでも共通する、およそ地方の若者がつまらない日常から逸脱する様がリアルなんですね。
少し先の時代に進むとスマホが出てきて、こういった地方特有の連帯感みたいなものも薄くなっていった気がしまい、そのへんに妙なノスタルジーも感じてしまいます。また節目に色恋が入ってきて、それが綺麗に収まるものばかりでないのもまたリアル。
日常描写のあるある感と、臨場感あるバトルシーンのギャップ
そして舞台が群馬や長野など適度な地方間に溢れているのもまた魅力。普段は何も考えてなくてぼーっと将来どうなるんだろうと考えてるような主人公たちの日常。何もなさそうな田舎だから、バトルに一転した時のドラマに熱が入るのです。
この日常から転じる祝祭性と熱狂性、相反してローカルで地に足のついたロケーションや日常の妙味の描き方が非常にうまいのです。
作者の人物の造形や描き分けはあまりうまい方ではないと思うのですが、バトルシーンの臨場感は随一です。マシンが一度オーバーヒートして、新生される流れと連動してドラマの盛り上がりを持ってきてるあたりもいいのです。
第2部になると、バトルバトルの連続でちょっと胃もたれがしてしまうんですが…
第1部の主人公の拓海が高校を出るまでの流れはそういう地方のリアルと青春描写も絡まって、非常に綺麗に収まってました。
ラブコメを描きたいけどうまくいかず、また本作の続編的作品を手掛ける流れになってきていますが…作者にはまた、こういう適度なバトルとドラマの連動を期待したいものです。

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