一見複雑に見えるものの、末永く遊べる奥深さとシンプルさを兼ね備えたゲーム
RPGにおける楽しみの1つであるキャラクターを成長させ、育成させていく要素。そしてもう1つ、自分の育成したキャラクターを使い戦略を練りながら立ち回る思考の楽しさ。その2つを無駄な要素なく、シンプルに徹底的に詰め込んだゲームがあります。
遊ぶごとにキャラクターの育成のパターンを変える事で、無数の育成パターンが可能で末永く楽しめて、1戦、1戦が区切りとなるため区切りも付けやすい。スルメのような魅力のある本作を紹介します。シミュレーションRPG史上では最も売れたタイトルと言われています。
夢のコラボレーションのようなゲームが誕生した成り立ち
現在のRPGなどでは一般的になっているキャラクターメイキング。キャラクターのゲーム内での職業や性別を自由に決めて、それによって戦闘などで能力の差別化をしたキャラクターでパーティーを組んで、冒険をするこれを形にしたのが海外初のRPGウィザードリィでした。
これを見降ろし型のRPGに持ち込んで、日本で大々的に受け入れられたのが「ドラゴンクエスト3」。さらにこれらのゲームに影響を受けたファイナルファンタジーシリーズではそれまで冒険者の酒場のような特定の場所でしかキャラクターメイキングができなかったものをゲーム中いつでも転職できるジョブチェンジというシステムを3作目で採用、ゲームの進行に伴って職業である「ジョブ」の種類が増えていくという作りになっていました。
また、5作目ではこれらジョブを育成させていく中で各職業の特技である「アビリティ」を習得できるよ
うになり習得したアビリティは別の職業に付け替えることができ、キャラクターカスタマイズの幅が大幅に広がったのでした。
そしてRPGとは別に進化をとげた戦略シミュレーション、1つ1つが固定の能力を持つ「ユニット」を資金で生み出す、戦場にどれだけ投下するかで戦況が左右されるというゲーム性があったのですが、任天堂が生み出したファイヤーエムブレムはこのユニットにRPGのようなキャラクターの顔グラフィックと一律ではない各キャラ各々の能力面での「個性」そして、RPGのように戦闘を繰り返すとレベルがあがるという要素を取り入れました。
シミュレ―ションRPGの登場で、RPGブームが起こる中で並行してシミュレ―ションRPGも数多のタイ
トルが生まれ1つのスタイルを確立していったのでした。そんな中では一際「決定版」と言われるまでの評価を得たのがオウガバトルサーガと釘撃たれたタイトルの2作目「タクティクスオウガ」でした。
前作に当たる「伝説のオウガバトル」では8マス程度の決められた枠の中にサイズの決められたユニットを複数配置しそれを1つの部隊として、複数編成しそれをリアルタイムの戦場に投下して動かしていくという画期的なシステムを取りました。
それまでのシミュレーションRPGはユニットをマス目で移動させるものが一般的だったからです。続編であるタクティクスオウガはここからまらスタイルをさらに変え、一般的なシュミュレーションRPGと同じくマス目で区切られたステージに1ユニットづつ配置するというオーソドックスなスタイルを取りました。
しかし、このフィールドがこれまでにない形で、多くのS・RPGは平面的な見降ろし型だったものを斜め
上からの視点を採用する事でマップに立体的な高低差を生じさせることに成功。それまでのS・RPGは戦闘画面になると画面が切り替わる形になっていましたが、タクティクスオウガは画面の切り替えもなし、これによってこれまでは地形効果のような「数値」で差別化されていたものがすべてビジュアルで分かりやすく表現されたのでした。これはアクションアドベンチャーでいう「ゼルダの伝説」に並ぶ画期的な表現。
天候の変化もリアルタイムで表現され。魔法の効果範囲、さらに射程範囲が広い弓矢などにも高低差による影響が及ぶようになりました。またストーリー面の表現も画期的で、単なる国家間の争いから踏み込んで国家のイデオロギーや人間の負の側面、民族紛争にまで踏み込んだ硬派なテーマは流れは当時の
ゲーム業界では異色のもの。
国産のタイトルでも現在においてもメタルギアソリッドなど限られたタイトルしか上げられないものだと思います。ストーリー中の選択で話の流れやEDが分岐する流れも秀逸で。これは「真・女神転生」などが取り入れたものをフィードバックした形です。
本作ならではの強みとは
これら2つの流れを統合したのが本作「ファイナルファンタジータクティクス」なのです。元々ファイナルファンタジーの総指揮をしていた坂口博信がタクティクスオウガを痛く気に入り、オウガシリーズを制作していたクエストから中核になるメンバーを移籍。(当時のスクウェアは贅沢な資金を持っていて、有名クリエイターの移籍が相次いでいたため引き抜きなどと噂も経ちましたが…)
ただの良いとこどりではなく、正式なメンバーによるコラボレーションの形となりました。このへんはクロノトリガーのような流れも感じます。個人的にはもともとオーソドックスなRPGでキャラクターメイキングをする場合、職業固定がもっともバランスが取りやすくジョブ+アビリティまで広げてしまうとボス戦以外の戦闘は簡単になってしまう懸念がありました。
傑作と言われる「ファイナルファンタジー5」もアビリティのカスタマイズをいかした楽しみかたをする場合、低レベルクリアでボスをどう撃破するかが、話題になるのもそのためです。
しかし、これがシミュレーションRPGになると敵も思考ルーチンが高くなり、アビリティやジョブの性能もフルに使ってくる事になります。シミュレーションRPGこそ、ジョブ+アビリティシステム。カスタマイズできるキャラクターメイキングと一番相性のいいジャンルなのではないかと思っています。
オウガから引きつがれたもの、FFから引き継がれたもの
タクティクスオウガに比べるとキャラクターのサイズが大きくなったものの、戦闘参加人数は少なくなっていますが(9人→5人に)本作では敵・味方ともに複数のユニットの役割を兼ねている事と、戦況の把握のしやすさから参加人数的にもちょうど良さを感じるバランスです。
後半では戦略バランスを壊してしまうほど強力な味方キャラが参戦したり、バランスを壊すほど使い勝手が良すぎるアビリティも出てきますがこれもまた初心者救済処置とみるべきでしょう。
本家ファイナルファンタジーと比較すると、アビリティが細かく設定された事と、ゲーム序盤から自由にジョブを解放できる点に特徴があります。FFではゲーム進行にともなって4つあるクリスタルからジョブが解放されていく形で段階的にジョブが増えていきましたが
本作では最初に選択できるジョブは5種類ほど、それを育成し経験値とは別にあるJPを稼いでいくと複数のジョブに派生して変更できるようになり、さらに育てたジョブ同士の相性によってまた別のジョブが解放されていく、マップ上にはランダムでバトルが発生し経験値を稼げるフリーバトルのステージもあるため育成によって序盤からも複数の上位のジョブに転職が可能な自由さがあります。
ただし強力な上位魔法などはゲーム終盤に手にはいる上位武器に依存しているなどの制限もあるため、キャラクターの性能をフルに発揮するためには終盤までストーリーを進ませていかなければいけないという縛りがあるのが実に巧みな設定です。
後に本作の続編やブレイブリーデフォルトなど同じスクウェア・エニックス社のRPGに引き継がれたものが細かくなったアビリティの種類です。ファイナルファンタジー5ではジョブを育成して習得するアビリティはアビリティという1つの括りの中でのものでしたが、本作ではS・RPGの特徴をいかし、移動に伴うムーブアビリティ、攻撃などの行動に伴うアクションアビリティ、攻撃や魔法を補助するサポート・アビリティ、瀕死の時や敵から攻撃を受けた時に発動するリアクション・アビリティの4種類のアビリティに区分されカテゴリー分けされています。
例えば身軽さに強みがある忍者のジョブを育てていけば「MOVE+4」など移動範囲を大幅に広げるアビリティを習得、これを遠距離攻撃可能な弓使いにセットする事でフィールドの隅々まで攻撃の手が届くようになる、という具合です。
それぞれの「らしさ」
クロノトリガーが「ファイナルファンタジーらしさ」「ドラゴンクエストらしさ」さらに言えば、スクウェア制RPGらしさ、エニックス製RPGらしさの融合をどこかに感じさせるものがあったとすれば、本作もまたファイナルファンタジーらしさ、オウガらしさの特徴をバランス良く取り入れたとみられる部分もあります。
ファイナルファンタジーはしばしば「人間同士の戦い」に踏み込んだ描写がありSFC時代までのタイト
ルでは奇数型がキャラクターメイキング色が濃く「人間vs魔物」という形、偶数タイトルは「帝国vs反乱軍」という形をとる事が多かったのです。
本作はキャラクターメイキングが自由という点で「奇数」のファイナルファンタジー寄りですがストーリー面は中世における階級闘争、史実の裏側というテーマもありスポットとして「人間」につよく焦点が当てられています。
ファイナルファンタジーは奇数でも偶数でも冒険職は強く、部分部分で機械文明の影も出てくるのも特徴的ですが本作は人間同士の戦いから後半は教団の思惑、そして魔物の存在が強まっており機械文明ではなく中世の闘争に異世界的なものが強く干渉してきたような変化を辿ります。
この中世ファンタジーの中でも「暗黒の中世」に沿った流れは、ほぼオウガバトル寄りと考えていいで
しょう。一方でヴィジュアル面やキャラクターなどファイナルファンタジー色が強く出ています。チョコボやボムなどのお馴染みのモンスター。ファイヤ、ケアルなどの魔法名。
そして、ドットで表現された美しくも幻想的なフィールドの数々、ヴィジュアルにひときわ力を入れてきた当時のスクウェアですが、PSにハードを移して以降は徐々にポリゴンなど3Dの表現を強めていった中で、戦闘時の背景などはは立体的に起こされているものの、SFC時代を思わせるドットによるデフォルメのキャラや幻想的な背景描写を正当に進化させたようなグラフィックに仕上がっています。
オウガバトルも1作目は神話を思わせる幻想性、タクティクスオウガでは洋ゲーを思わせる重厚さを漂わせていましたが、そこにより柔らかいヴィジュアルを組み合わせたのが、本作と言えるかもしれません。
少し心残りのある「未分岐」と「終盤への流れ」
キャラクターカスタマイズの自由さや戦略性で文句のない完成度を誇る本作ではありますが、やや残念な点もあります。タクティクスオウガでは主人公に選択によってストーリーやエンディングのルートが「ロウ・ニュートラル・カオス」に分岐していました。
本作では歴史の表に立つキャラと裏に立つキャラ「ラムザ」と「ディリータ」という2人のキャラの対比が特徴になっているため、当初はどちらかのルートに枝分かれする構想もあったと言われます。しかし、劇中はラムザ側の描写のみで進み。
結果ストーリー分岐の要素がなくなってしまったため、自由度の面でやや後退した感もあります。階級闘争が主なテーマとなっていた序盤に対し、終盤は教会の思惑と主人公の私闘の側面が強くなり、
当初のテーマがぼやけてしまった感もまたあります。
特にFFシリーズで見れば終盤は壮大なスケールの話が収束していくダイナミズムのようなものも特徴であるため、価値観の別れた2つのルートで別れていたものがファンタジー的な要素も絡んで壮大なスケールに発展し終息していく、そんな展開もあってはよかったんではないかとちょっと妄想したりもしてしまいます。
もっとも、経過を辿れば割とこじんまり終息するものが現実の歴史の流れで、どこか物寂しい終盤の展開も大人の苦みに徹したと言えるかもしれません。少しファイナルファンタジーらしさとは外れてしまうのですが…
時代に左右されない、現在においても定番と言えるタイトル
やり込み要素も豊富でアイテムを奪う「密漁」から、下に下に潜っていく構成の「ディープダンジン」などこの時代らしい、マニア的なやり込み要素も備えています。とにかく複雑すぎないキャラクターのカスタマイズが麻薬的な面白さを放っている本作です。
オーソドックスなRPGであるファイナルファンタジーの名を冠しているため複雑そうなS・RPGと聞いてどこか敬遠されそうなタイトルでもありますがシステム面では特に日本のRPGとS・RPGの1つの到達点を示した作品でもあります。
時代に左右されないグラフィック面の魅力と合わせて、古びない奥深いシステムに支えられた本作。是非、多くの方に遊んでもらえたらと思います。
コメント