内に内省する暗さが麻薬のような心地良さを誘う失われた世代に刺さる名盤「syrup16g/HELL-SEE」

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何もする気がおきない時、暗い部屋で一人の時間に浸りたい時。底へ底へハマっていく感覚が妙に心地よく感じる瞬間があったりしないでしょうか?真冬の部屋のあの乾燥した間隔にピッタリはまるダークな陶酔感を呼び覚ましてくれる1枚。syrup16gのHELL-SEEです。


下北ギターロックサウンドが潮流になっていた時代


下北ギターロックと言われるポリスを思わせる内向的なサウンドと、ソリッドなサウンドを持ち味にしたバンド群が一時期、邦楽の潮流としてあった時期がありました。


個人的にもスピッツのようなやや内向きでPOPなサウンドとLUNA SEAのような尖ったサウンドの間を行くようなこの手のサウンドをとても志向していた時期があった気がします。

90年代中・後半には国民的バンドだったミスターチルドレンが当時の閉塞感ある日本を背景にした暗く内向的なアルバム「深海」をリリースし、大きなインパクトを残しました。同時期にはGRAPEVINEなど、そこに寄せた個性を持つバンドなども登場していきました。

そんな当時のシーンの流れ、そして世の中にニーズに応えていったのがUK.PROJECT界隈のレーベル。その流れに属していたのがバンプオブチキンやアートスクールなど2000年代初頭にデビューし活躍したバンド群です。中でも特にいまだに固定のファンの支持が厚い、コアな支持を得ていたのがsyrup16gでした。


内向的ギターロックサウンドという1つのブランド

先に述べた「深海」の内向的なギターサウンドの極北にあるようなアルバムが本作「HELL-SEE」です。syrup16gのアルバムの中でも一際内に内に籠っていくような感覚が強く、でも時折りそこにさっと光が射すような流れになるのが心地いいのです。どこか麻薬的な魅力がある…

疾走感もありながら、どこかサイケデリックな匂いもあるのですよね。そして、このバンドで主に作詞作曲を担当する五十嵐隆の言葉遊び的な歌詞のセンスも濃厚に出ています。


性急に走り抜けたような2000年代のsyrup


当時、年に1・2枚のペースでリリースを続けていたsyrup16gですが、翌年にまた2枚のアルバムを出すとツアーのみの活動に転じ、2008年に解散してしまいます。


その後にボーカルの五十嵐隆が雑誌の表紙を飾り、大々的に注目を集めていた「犬が歩く」というバンドがリリースもなく活動が流れ、その後数年間は五十嵐隆の活動は途絶えます。


そして、2014年にふたたびソロワークに転じていたメンバーと合流しsyrup16gが再結成。以後、数年に1作のペースで新作がリリースされています。年を経た独自の視点があり、その活動遍歴も「失われた30年」をなぞる日本とのリンクを感じさせます。UKにおけるRADIO HEADのように、失われた世代を代弁するようなバンドでもあると思うのです。

そしてその卓越したソングライティング能力、詩曲の魅力は、何かに追われるように性急に活動していた休止前の時期が特に飛びぬけていたように思います。いまの作詞と比較するとやはり特有の「青さ」のようなものはあるのですが、その青さもテイストになっていました。

本作は1500円という破格の価格も話題を呼びました。15曲入りで1曲100円。レコーディングにもあまり金をかけず、自由に制作できたのが功を奏したのかもしれません。


卓越したソングライティング能力。ズブズブと底に沈んでいくような魅力


色々なものを棚上げにしてモラトリアムしている心境にグサッとトドメを指すようなシニカルな視点。怠惰な心地よさにただただ浸っているような曲、脅迫的に何かに追い詰められているような曲。投げやりに言葉遊びに興じたような曲、懐かしい昔を思い返してふっと物思いにふけっているような曲。暗い部屋の中で物思いに耽っている心情をただただ綴ったようなアルバムです。


誰に日常にでもあるネガティブだったり暗い一面を、正面から描く事でそこに嘘臭さもがなく、心地よさすら感じる1枚。少し重めの内容に抵抗がない方には、必聴の1枚。

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