ファンタジーとは空想を頭の中で重い描ける分、ミステリーや文学と並んで小説と相性がいいジャンルだと思っています。そんなファンタジー作品の中でも王道のやや重厚な作品を小説で堪能したい方、あまりに長いものは無理なので、ほどほどの巻数で収まるものを…そんな作品を求めている方に一押しの1作が本作です。
国産ファンタジーの黎明期を形作った「ロードス島」シリーズ
始めて本格的なファンタジーやライトノベルに振れたのが世代的に「ロードス島戦記」だったのです。ファンタジーの古典である指輪物語でお馴染みのエルフやドワーフが登場し、ゴブリンやオークが害獣のように蔓延り、魔法が息づき、中世ヨーロッパ風に世界で各国の思惑と戦いが渦巻く中で主人公たちの冒険や葛藤を描く、ある意味王道のファンタジー作品でした。
その続編とも言える本作は、その過去の話…ロードス島戦記の時代では伝説となっている、ロードスの国々を滅亡まで追い詰めた魔神戦争と、それを終結に導いた七英雄を巡る物語です。過去の話になり、前作との繋がりはそこまで強調されていないために本シリーズだけでも十分楽しめる作りになっています。勿論読んでいれば要所要所で感慨深くなる点が多くなるのも間違いないですが…
そして、王道であった「ロードス島戦記」に対して本作はダークファンタジーや大河ドラマな匂いがより濃厚で、シーンカットが多いなどの欠点もありますが、それが展開のテンポの良さにも繋がり、何より当時のファンタジー系の流行の1つでもありましたが、歴史の表舞台から消えた幻の英雄…七英雄を繋げたもう1人の英雄を主人公にした物語であったのが面白い構成でした。
また政治家や国家の思惑を巡る陰謀劇、暗黒の中世のドロドロした要素も踏まえられており、ダークファンタジー風の趣も強いです。一方で、前作にも劣らない異世界を情緒豊かに描き出す描写も抜かりなしです。特にドラマやゲームのファンタジーものでは、世界観の説明や状況描写に限界がある分、文字媒体ならではの強みを生かし、国家や世界の成り立ちなど世界観の深堀りがキチンとされている事がファンタジー小説の醍醐味で、そのエッセンスも存分に発揮されています。
TRPG小説としての側面も
ドラゴンクエスト3のように過去の話になる事で意外な伏線が明かされたり、する事でよりドラマティックな演出が高まる。そのダイナミズムを小説と言う媒体で感じさせるような構成はお見事。
さらにこれは前作ロードス島戦記でもとられていた手法ですが、本作の作者水野良は関西にあるテーブルトークRPGを主体に展開するグループSNE所属の作家でした。たまたま小説が大きくブームになったのですが、もとは現在のコンピュータRPGの元になったボードゲーム風のテーブルトークRPGを国内で普及する一環で小説展開された側面があります。
前作も本作も要所要所はテーブルトークRPGとしてゲームでクエストを展開し、そこので死亡したキャラクターがいれば物語的な肉付けをして、小説本編の展開に持ちこむという面白い手法がとられています。そのため普通の物語とは違う、ゲームの結果からくる意外性も物語の先の読めなさに一躍買っているのですね。

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