90年代の日常を思い起こさせるノスタルジー
32ビットゲームハードの全盛期、特にプレイステーション1が人気を博していた時代はCD-ROMの容量が増えた事でゲームの表現が飛躍的に向上し、また、ライトゲーマーの流入とソニーが広告展開に力をいれた成果もあってどんなゲームでも当たりやすい土壌から多くの中小メーカーも参入してきていました。
そんな中、特にアドベンチャーと言うジャンルで傑作をリリースしていたメーカーがヒューマンでした。そんなヒューマンのアドベンチャーの流れを汲んだ、エッセンスの集大成とも呼べる作品が本作「夕闇通り探検隊」なのです。
横視点で完全再現された平成時代の郊外の町を、不思議な噂の真相を求めて探索する未だに明確なフォロワーのいない唯一無二のゲーム。プレミア価格を押してもプレイして欲しい一本です。
一時代を築いたヒューマンのホラーアドベンチャー
スーパーファミコンの末期、殺人鬼に少女が追われるスプラッターホラーの世界を内容を横視点の画面でゲーム世界に持ち込み、本格的なホラーアドベンチャーの先駆けになったと言われるクロックタワー。バイオハザードのヒットを受けて、海外風のホラーアドベンチャーゲームに大きな注目が集まっていたプレステ1では、その続編であるクロックタワー2がポリゴンの形になってリリースされました。
また当時は、「学校の怪談」や「女優霊」など学園ホラーや怪談モノのブームが起きて、来るべきJ-ホラーブームの前夜ともいうべき頃。3人組の個性の異なる女子高生が学校や郊外にある10の噂を解明していくオムニバスホラー形式のトワイライトシンドロームもリリース。
制作側の事情から探索編・究明編と分割し時期を空けてのリリースとなりましたが、恋愛やいじめ、民俗学、当時話題になっていたアダルトチルドレンなどの10代のテーマ…そこに戦争や暮れ行く昭和、コギャルブームも相まった90年代のカルチャーも織り交ぜて、単なるホラーに留まらない時代性溢れる作品に仕上がったのでした。
どちらも同時期にリリースされスマッシュヒットを飛ばし、ヒューマンのアドベンチャーは1つのブランドとなっていったのでした。
迷走の果てにリリースされた夕闇通り探検隊
しかし、その後ヒューマンは経営状況が悪化。クロックタワーはゴーストヘッドと言う続編を作りましたが売りとしていたヨーロピアンホラーから一転、舞台が日本と言う番外編的作品でシリーズの顔ともいうべき殺人鬼シザーマンが不在となり、賛否両論。
トワイライトシンドロームはやはり番外的続編としてムーンライトシンドロームをリリースしますが、純正なるホラーから当時流行りのサイコホラーに路線変更、キャラクターもポリゴンに一新されそのゲーム性や結末を巡っても、やはり賛否両論巻き起こした作品となりました。
そして、翌年にはヒューマンはゲーム事業から撤退してしまいます。これら急な作品の路線変更などは、どこか当時のヒューマンの社内の混乱を思わせどちらも意欲作ながら正当な続編をその時期にリリースされていたらどうなっていただろうとイフの歴史に浸ってしまう気持ちもあります。
そんなヒューマンの制作陣やタイトルを引き継いだのが現在も洋ゲーのローカライズなどで知られるスパイク社なのでした。スパイクはヒューマンがそれまで制作していたタイトルを引き継いでリリース。
やはり同時期にリリースしたシルバー事件などの傑作を含むのですがその1つが本作、夕闇通り探検隊なのでした。タイトルこそ違えど、3人組の中学生を操作して学校でささやかれる都市伝説を解明する、トワイライトシンドロームのエッセンスを引き継いだ続編とも言うべき作品(制作陣も被っています)その横視点で表された画面はクロックタワーの時代からつづくヒューマンの伝統を引き継ぐものでした。
トワイライトの流れを受けた、個性的なゲームデザイン
このゲームはかなり理想的なゲームデザインになっています。トワイライトシンドロームでは1つ1つの話は非常に作り込まれていたもののオムニバス形式なのでどうしても移動できる場所は、制限されたものになっていました。
夕闇通り探検隊では、噂を入手するパートこそ学校内の1フロアに限定されていますが探索パートでは1つの町の中心部唐郊外を丸々探索できるようになっています。そして入手した噂によっては個別で進めるエリアが解放されるという流れ。
その噂の数は44個、その中にはしょうもない学園ゴシップのようなものから、民俗学エッセンスに満ちた土着的な守護霊が絡んだもの、本物の心霊現象に遭遇するものや、どこか寓話的なオチがつくものまで多種多様。噂の数が多い分、1つ1つは10篇のオムニバスホラーだったトワイライトほど作り込まれたものではないですがミニシナリオの集合体といった趣です。
個性的なキャラクターのおりなす群像劇
霊の存在をうっすら信じつつあくまで現実的な処世術の中で生きる優等生男子のナオ。孤高を貫き、同人誌に投稿をつづける現実主義の文学少女サンゴ。天真爛漫で子供っぽく特異な霊感体質を持つ少女のクルミ。
この3人の個性の使い分け(誰を先頭にするか)が攻略の肝にもなります。3人はシナリオの中は勿論ですが探索の前後で表示される日常パートでより、その背景が掘り下げられていく事になります。
これは主人公3人組だけに限らず、それを取り巻くクラスメートたちも含まれており、群像劇的な側面も持っています。クラスをまとめきれずに苦悩する学級委員長。不思議な影を持ちつつ誰とも一定の距離を持つが何故かナオには一定の心を許すイケメン。雨の日にしか登校してこない巫女さん属性の少女。
トイレで悪口の噂を流す女子集団おトイレ軍団、その男子版とも言えるユアサ軍団。異様に仲のよい女子コンビ。同級生に密かに呪いを掛けようとする陰湿男子、男女問わずフレンドリーに接するスポーツ女子などなど。。中学の頃こんなヤツいたいたな…感がとてつもなく強いのです。
そしてそこに流れるどこかやるせない感じも中学時代特有のもの。懐かしくも痛い記憶が蘇る…ゲーム作品には珍しく、文学や邦画の匂いがする群像劇の側面があります。そんな青春群像劇と進行して、日常に不穏に忍び寄ってくる呪いの影…的な描写が非常に秀逸なのです。
平成の時代を回顧させるノスタルジーと都市伝説
トワイライトシンドロームは暮れ行く昭和と平成のコントラストが1つの魅力になっていましたが本作「夕闇通り探検隊」は、既に過ぎ去ってしまった平成。特に90年代後半~2000年代前半(平成中期)特有の匂いに強烈なノスタルジーを感じさせる作風になっています。舞台となる陽見(ひるみ)市(東京郊外の日野市がモデルと言われています)も郊外型の住宅地の典型で、多くの人が思い起こすであろう平成の地方にあるような街並みなのです。
そこに駅前の商店街やコンビニやコインランドリー、郊外の神社や開発地、団地など様々なエリアが併設。そこで語られる噂の数々も、どこか懐かしさを思わせるものです。
作中では携帯電話(ガラケー)は普及していますが、インターネットはまだ本格的に普及してない時代。消費社会としては十分に成熟していながら、本格的な情報社会が到来する前夜。まだネット掲示板や個人ブログでの写真投稿などで、日常に異世界の入り込む余地があった時代です。
トワイライトシンドロームの最期の噂である「裏側の街」は三丁目の夕日的な昭和の街並みをノスタルジーを持って描写した先駆的な作品でしたが、本作が描いた平成のファスト風土的なものと新興住宅地の狭間に商店街や寺社仏閣や開発地が混ざった情景もまた、ノスタルジーの対象となってきています。
プレミア化とその後の影響力
本作はプレステ末期の時代にリリースされ出荷本数も低かったものが、後にゲーム配信などで密かな人気を押し上げられていき、現在2万前後の価格が普通のプレミア価格となっています。
制作チームがすでに解散しており版権の問題も絡んで配信や再リリースの機会にも恵まれませんでした。また、同様のテイストを持つ作品はトワイライトシンドロームの直接の続編を覗いて未だに見られず、それらもリリースが途絶えた状況。
昨今、同様のタイトルを捩ったバンドや楽曲、ハイスコアガールの作者押切蓮介氏など業界では密かなフォロワーも多く持つタイトルにもなっています。未だに明確なフォロワーを持たない本作は実際のプレイを通してしか、なかなか真の魅力が伝わらない部分もあります。
操作性の重さや、ヒントが無さすぎるゲーム展開などゲームとしての欠点もあるのですが、動画などをみてそのノスタルジーや独自の横視点で描写された街並みに強烈に惹かれた方は、プレミア価格を推しても購入する価値のあるタイトルだと思っています。実際に操作して、体感するのがこのゲームの肝だとも思っているので。
また、攻略はネタバレしない程度に進行のヒントを混ぜた攻略サイトと併用するのがイチオシです。一度にすべてのシナリオを網羅するのは厳しいですが、EDに必要な重要シナリオと一部興味を引かれるような噂から攻略して、2周ほどである程度の噂を回収するのが効率のいい遊び方かな…と思います。
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