綺麗なメロディに文系な歌詞、感性にビンビン訴えかけてくるようなギターポップの王道をゆく、時代を越えた名盤だと唸らされる1枚。スピッツの「ハチミツ」のレビューです。
説明不要、永遠のエヴァーグリーンを指し示す文系ロックの大名盤
ブレイクしてからはや30年近く、息の長いバンドは数ありますが、いわゆるレコードが主流の70年代や80年代以降CDの売り上げが右肩上がりでバブルになるのと同時に世代間で共有できる音楽が(それどころか世代間の中でも細かい嗜好が枝分かれしていた)次第に分かれていった90年代以降のミュージシャンでは異例なほど独特の存在感を放ち続けているのがspitzでしょう。
シングル・アルバムで100万枚以上の高いセールスを数年にわたり維持していた90年代ミリオンセラーバンド組の1角になりますが、一方でアリーナロック嗜好ではなく地道にフェスやライブハウスを周っていくスタンス。
コアな音楽好きが集う名盤ランキングなどでも上位の常連で一般層からコア層まで根強い支持がある事。90年代では白線流し、00年代ではハチミツとクローバー最近ではsilentなど年代を跨いで青春映画のテーマ曲、あるいは挿入歌として取り上げられる率も高くCMタイアップ率も高い。
その世代を超えた厚い支持はCDの売り上げが下がり配信やサブスクが主流になった昨今、ライブに置いてはワンマンからフェスが定着していきコロナ禍の騒動も挟んだ90年代~20年代の平成・令和の期間に一貫したスタンスで活動し続けた姿勢によるところも大きかったのでしょう。
ただそういったスタンスで息の長い活動をしているバンドはスピッツの同世代のバンドからその下の中堅と言われるバンドまで数多くいるために、スタンス1つを持って特別と言うわけでもなく。CDバブルの時代を挟んでいたという、知名度と支持の高さを両立するのに決定的に有利な時代にブレイクしたという点も無視できない1点でがありますが。
やはりそこは彼らのとびぬけたメロディ―センスの高さ、それまでいたようでいなかった「文系ロック」的なスタイルを完璧に形にしてしまった事。そして比喩と空想と文学と妄想の混ざった歌詞、それを綺麗なメロディに乗せて違和感なく聴かせてしまう、草野マサムネの卓越したソングライティング能力によるところが非常に大きいでしょう。
長いキャリアを経る中での名盤も多い中「王道の1枚」
既にブレイク前にシューゲイザー的なサウンドに挑戦した意欲作「名前をつけてやる」00年代に入りロックサウンドや打ち込みにも果敢に挑戦し新境地を切り開いた時期の名盤「三日月ロック」など長いキャリアの中で代表作と呼ばれるものが無数にある彼らですが
メンバー自身が、完璧に自分たちの色を出し切ってしまった為に後に「打倒ハチミツ」を掲げ、発売後20年以上経た後に本作収録の「愛のことば」がセルフリミックスされてシングルリリースされたり、本作のみのカバーアルバムが出たりとシングル曲以外にもタイアップが付いていたり何より「一番売れたシングルを含む一番売れたアルバム」になっていることもあり…
つまりメンバー自身の評価・一般の人気・楽曲の質すべてにバランスが取れた、まさに王道をいくスピッツの名盤。メロディーが際立った本作と対をなすローファイなサウンドをあえて打ち出した(こちらも有名な代表曲チェリーも含む)次作の「インディゴ地平線」と並び、本作「ハチミツ」の前後の時期が王道のスピッツとしては一際強い輝きを放っていた時代の名盤と言えるでしょう。
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