発売50年以上経ってもプラネタリウムで連動企画が開催されるなど非常にロングランで愛される作品。人間が普遍的に持つ「裏の面」に徹底的に拘った歴史的名盤です。
前衛的なアートロック、あるいはロック版オーケストラとも言われるプログレというジャンルで、効果音やノイズにまで徹底的に拘り、全編を1つのテーマ=コンセプトで貫かれています。
そして、全編に漂うダウナーな退廃感が逆に病的な魅力を感じさせる1枚なのです。全世界で5000万枚以上を売り上げコンセプトアルバムの代表作ともなりました。
プログレと言うジャンルを代表する1枚にもなった
ロジャー・ウォーターズがリードする形で完成したと言われていますが、人間が根源的に持つ人生への意味、時間や金に追われる生活。現在社会に触れる矛盾や退廃感と正面から向き合い、その暗い本質に目を向けたような作品。
通常そのような暗い作品には商業的成功は度外視になる事も多いのですが、前衛芸術、特に映画や音楽というジャンルでは時にそのような人間の暗い本質に向き合う事で評価だけでなく、セールスまで破格の成功を収めるものがしばしば登場しています。
ちなみに原題は「The Dark Side of the Moon」で月の裏側の暗い面という事になりますが、欧米では月はlunaticは狂気を示し、アルバムでのテーマを救い上げて「狂気」となった流れでしょう。
虚無的な哲学を描いた楽曲群
1曲目のSpeak to Meで挿入されるタイプライターの音、3曲目のOn the Runで入る不穏なシンセサイザー、4曲目のTIMEで入る目覚まし時計の音など、6曲目のMONEYの冒頭のレジの音など現実世界の音を随所に入れながら、社会批評や人生の意義を問いかけるような楽曲が並びます。
特にシングルカットされたTIMEなどは非常にシンプルに時間に追われる人生の虚無を描いていますし、6曲目のMONEYは分かりやすく社会主義批判がテーマでしょう。
そのように身近で分かりやすいテーマのものと後半(LPで言うとB面に当たる曲)になると次第にスケールが大きく抽象的なイメージの曲が増えてきます。
戦争や人間の暗黒面、精神の崩壊した人々…などが歌詞に現れてきますが、現在社会の異常なスピード感や企業・国家間の競争の果てにある混沌とそんな現代社会から距離を置いた狂人こそが逆説的にまともさを維持できる。ある種の哲学的なテーマに踏み込んでいます。少し東洋哲学に通じる感もありますね。
これらは現代でもしばしば描かれるテーマにはなっていますが、同時期にアメリカンニューシネマの文脈でも語られる事が多い「タクシードライバー」などで描かれた現代社会の歪みを、壮大なスケール感をもってコンセプトアルバムで提示した、こちらもまたパイオニアのような作品…普遍的なテーマを扱った歴史的名盤なのです。
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