独自のサウンドでソリッドとエモさを両立。「NUBGER GIRL/SAPPUKEI」

MUSIC


世紀末~新世紀初頭のたった数年間を駆け抜けた異形のバンド


日本を代表するオルタナティブロックバンド、ナンバーガール。インディーズ時代やメジャー1stとなった時期は轟音を武器にしながらも、どこか日本文学的な歌詞にそして青春を回顧させるキラキラしたイメージ、そこに後々に世紀末感や焦燥感も加わった独特の世界を展開していました。


80年代の邦画や90年代のサブカル界隈の雑多な匂いもそこには漂っていました。そして、その時期のサウンドをスタジオ版以上の迫力で収録したメンバーのテンションも観客のテンションを異様に高かったと言われる「シブヤROCKトランスフォームド状態」


ボーカル向かいのトボけたMCも観客の熱量もも高いこのライブ盤は、彼らの解散ライブを収録した「サッポロomoide in my head状態」と並んで名盤と言われる事が多いのです。


初期の路線を総括したのが「シブヤROCKトランスフォームド状態」とも言えます。インディーズからメジャー1stの2枚のアルバムは、あえて轟音シューゲイザーなサウンドに拘った結果だとも言えますが、特にvo向井の声が遠いなどの欠点もあり、それを上回るテンションと録音状態を誇るライブ盤だったとも言え。


その次のスタジオ版となったのがディブフリッドマンをサウンドプロデュ―サーに迎えて、アメリカで録音された本作「SAPPUKEI」なのです。キャリアとしてはその次となる彼らの最後のスタジオ盤「NUM-HEVY-METALLIC」が向井秀徳のその後のバンドZAZEN BOYSの前身のような仕上がりにの音になっており、ナンバーガールとしてはやや過渡期の印象を受けるものだったのに対して、本作「SAPPUKEI」はナンバーガールのサウンドをほぼ完璧なバランスで収録した唯一のスタジオ盤といってもいいのではないでしょうか。


個人的に青春時代にこういう曲をやるバンドがいないかと夢想していたような曲が彼らの曲の中には幾つかあり、それが初期代表曲の「omoide in myhead」とこのアルバムの延長にあるシングル「鉄風鋭くなって」なのでした。omide~は青春をやや過ぎた状態からそれを回顧するようなシチュエーション…そこにエモーショナルな初期衝動をガンガンに込めて鳴らす音に。「鉄風~」は夕暮れ時の情景を頭の中の妄想のイメージで膨らませながら、ソリッドな音像で形にしたような和風ビート全開な尖ったサウンドな曲。


どちらも聴いた時に求めていたのはこれだ!と思ったくらいイメージそのままで、しかし、それら趣の違う曲を同じバンドが鳴らすのはなかなかイメージできなかったのですが。そのかけ離れた2曲をキャリアによる音の変化の流れの中で見事に曲にしていたのが個人的にナンバーガールの一番思い入れのある点なのです。感性の根っこに刺さった感じといいましょうか。

そして「鉄風鋭くなって」に見られるエモーショナルな感情と散文的な造形描写を重ね、イメージを膨らませる曲がナンバーガールには多いのでした。今日的に言えばエモい楽曲が多い。

一方でボーカル向井秀徳の独独のMCやキャラクター、CDのアートに至るまでのどこか尖った感覚も大いに魅力的なバンドでありました。他の3人のメンバーも寡黙でありながらプレイヤーとしては大いにキャラ立ちしていて、この手のギターバンドで作詞・作曲をボーカルがこなしていた場合、どうしてもボーカルが目立ってしまいがちな中、ただの1メンバーにおさまらない個性を4人ともが発していたグループでした。


その感性やサウンドはまた後進のバンドに多大な影響を与え、2000年以降の邦楽では和メロとオルタナ的疾走感、青春の焦燥感にも重きを置いたナンバーガールフォロワーなテイストを持つバンドが多数生まれる影響力も与えました。

また雑誌文化がとりわけ強く、ストリートカルチャーも勢いがあり、インターネット黎明期でアングラな匂いがまだまだね強かった当時、それら「サブカル的なもの」に後押しをされて異様な熱量を持っていたバンドでもありました。サブスクや配信全盛の今日、ここまでサブカル的な佇まいのまま熱く支持されるバンドもなかなか今後も成立しえない気もしています。


轟音の中に隠されたエモーショナルな感覚


本作「SAPPUKEI」は先に述べたようにシングル「鉄風鋭くなって」と同じ、和的な世界観にソリッドな演奏が重なる、生粋のオルタナサウンドを表現したアルバムです。

アルバムに入った曲たちは1曲取り出しただけでは、歌詞もとっつきが悪いし、サウンドも重ため、録音状況の悪さを除いては青春のキラキラした匂いも隠し味的に持っていた初期のポップさもなくけっこうヘヴィーなアルバムです。

しかし、聴き込むうちに計算されたオルタナサウンドは耳に心地よくボーカル向井秀徳の頭の中の世界をそのまま音像にしたような歌詞は、エモーショナルに頭の中に刺さってくるのです。


都会の中の殺伐感、ディスコミュニケーションを荒々しい心象風景とともに轟音で描写したそれは「URBANguiter sayonara」でより不穏なものに進化し、「SAPPUKEI」や「TATOOあり」、「U-REI」などのアルバム中盤〜後半にかけてそれはピークに達し、「トランポリンガール」でそれが鮮やかに解体されていくのです。


サスペンス映画のように始まった物語が、あちこち漂いながら時にどこか青春の残り香も漂わせながら都市の風景の中に閉じていくような独特の感覚。殺伐とした感じで始まったものが妙な緊張感と心地よさを孕んだまま、終息していくのです。

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