独自の映像美とモノローグ…作者の作家性と若さと感性のバランスが絶妙な作品に「秒速5センチメートル」

MOVIE2(アニメ・特撮)

圧倒的な映像美とモノローグ、それだけでぐっと見るものの心を引き付けてしまう。ある種の内向的映画の極致のような作品。あの新海誠監督が2000年代に残した傑作をレビューします。

陰キャ的な個人製作者が気が付いたら国民的な監督に

セル画による描写が基本で、職人集団のスタジオワークという趣が強かったアニメ業界。それがコンピューターの普及によりCGによる個人製作も可能な時代に入っていった2000年代の時期。日本ファルコム制作のRPGのデジタルによる新規オープニングムービーを手掛け、その非常に凝ったカメラワークや圧倒的な情景描写が話題を呼び

初の長編アニメ「ほしのこえ」を一人で作った事で大変話題になったのが新海誠監督でした。新海監督と言うと、ポストジブリ(宮崎駿)的な監督を業界が推していく中で、「君の名は。」以降のいわゆる「災害3部作」がどれも一定以上の興行収入を叩き出し、アニメ監督としては令和の時代に最もポスト宮崎駿的な位置づけに近い監督になっていると思います。

しかし、それらのアニメはよく言われるようにもともと持っている作家性(たとえばよく言われるようにヒロインの存在(能力)が世界の命運を左右し、そのスケール感に対して人間関係は限定的な「セカイ系」に属す作風だと言われますが、この作風は初期からある程度一貫しているものです)はある程度残しながらも、観客に伝わりやすいように…

つまりそこにハッピーエンド的な味付けと、アオハルアニメと呼ばれる青春映画的な味わいやジブリ映画的な家族的な構図までも導入する事で「大衆性」に擦り合わせた結果だ…とも言われています。

初期の作風の総括的な側面もあり

しかしそれ以前の新海誠作品は…というと圧倒的な自然描写に人物がモノローグを多用する一人語り的な側面も強く、登場人物もどこか厭世感を漂わせる達観した描写が強めなアングラ文学作品のような趣が強かったのです。それは実写映画監督で言えば岩井俊二監督を思わせるものでした。

その後の「星を追う子ども」ではジブリ的なファンタジー作品に、「言の葉の庭」で初めてビター寄りなハッピーエンドとも言える展開となり、それが「君の名は。」に繋がっていくのですが…そういう意味では本作「秒速5センチメートル」は「ほしのこえ」「雲のむこう、約束の場所」までに見られた初期の作風の一つの総括とも言える側面があるかもしれません。

ただそれ以前の作品は2作との変化もあり、SF的なギミックが色濃かったものが本作では初めてSF的なシュチュエーションを廃した現実的なものに寄せられ、わずかに深宇宙探査機が登場する事や具体的なローカルな地名が登場する事(これは現在までも一貫していますが)に名残リが残されています。

主人公のモノローグで語られる切ない話と現実の無常観、それと対をなすような美しい情景描写と合間に挿入される楽曲の数々。人を選ぶ作風ではあるものの刺さる人には強烈な作風になっており、前2作に比べても芯にあるエッセンスがより分かりやく取り出された内容になっています。

この作品に漂う作家性や雰囲気はやはり2000年代当時の潮流の一つを思わせる面もあり、当時を回顧させる作品として、そして新海誠の作家性が分かりやすく前面に出ている点も含めて秀逸なモノに仕上がっていると思います。

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