日常に疲れた時、大人になるほどにもう昔のような熱意や情熱がなくなった…と感じる方も多いでしょう。そんな時大きく助けになるのが映画や音楽などのカルチャーだったりします。そして、ゲームもまたただの娯楽を越えて実生活に良い影響を与える作品は、形は違えど様々な形で存在します。
束の間の気分転換を与えてくれるもの、知識や考えに影響を与えてくれるもの…そして、現在進行形の若者や熱を失った大人にも日常を忘れるほど没入感を与え、そして日常生活に活気を与えてくれるような作品が本作。ペルソナ5ロイヤルになります…ペルソナ5の完全版です。
今や世界的になったJ-RPGの傑作
日本を舞台にした伝奇小説、複数のメディアを跨ぐメディアミックスの波に乗りドラゴンクエストが発端になったファミコン時代の最初の国内の大きなRPGブームの時代に現在を舞台にしている事、敵を仲間に出来る事など独自色をおおく打ち出し、多くの当時のRPGがドラゴンクエストと同じ見落ろした画面でのスタイルを採用する中、元祖RPGとも言われるウィザードリィと同じ主観視点を採用するなどオリジナリティ溢れるスタイルでコアなファンを獲得していった「女神転生」シリーズ
ゲームハードの性能が飛躍的に進化したプレイステーションやセガサターンなどの32BIT機時代になるとスケールが東京や世界規模の異変・カタストロフィを題材にしたシリーズ本編とは別に、1つの街スケールに落ち着いた等身大なスケールの作品としてセガサターンでは「デビルサマナー」シリーズを。プレイステーション側ではキャラクターやシナリオに重きを置いた「ペルソナ」シリーズが展開されてていきました。
ペルソナとデビルサマナーと言う2つの流れ
デビルサマナーの方が悪魔が登場するハードボイルドといったテイストで、基本システムや画面構成も
シリーズの伝統を踏まえたものだったのに対し、ペルソナシリーズは戦闘画面で主人公たちも表示され何より敵である悪魔を「仲魔」にするのではなく、敵との交渉でもらったカードを組み合わせる事で
同様の悪魔の力をペルソナとして降臨させて思念体として使役するという設定を取られました。
ベースとなっているのはスーパーファミコン時代に出した番外編的作品「真・女神転生if…」が基になっており主人公たちが使役するペルソナはいわばジョジョの奇妙な冒険のスタンドの存在に近いものです。
しかし、この学園物とペルソナという設定の組み合わせは実に魅力的で、女神転生本編ではキャラクターにあまり多くのスポットを当てることが少なかったのですが、ペルソナシリーズでは思春期の主人公たちが自分の内面と向き合うという流れを通して、キャラクターの個々の魅力がより大きくクローズアップされているのが特徴です。
独自の流れを辿ったペルソナシリーズ
初代ペルソナ(女神異聞録)は、女神転生の流れを受けたホラー・ゴシック調の演出もあり、ダンジョンも伝統の主人公の視点から見た主観視点でした。キャラクターは80年代の学園ものと90年代のストリートファッションに身を包んだキャラクターが混在する、まさに90年代ならではのものでした。
これが後のペルソナともメガテンとも違う独特な匂いに収まっていた特徴ですが…2作目からはダンジョンでもキャラクターが表示され。90年代後半の雑多なカルチャーも踏まえ噂が現実になるシステムを採用。
2部構成で展開され、前半となる罪では非常にショッキングなエンディングの流れが話題にもなりました。ここで一度完結したシリーズが5年ほどのブランクを経て、ペルソナ3として復活したのが2006年。
このあたりで制作者であるアトラスも制作陣の入れ替わりなどがあり、作風もここで大きく変わりました。2までのスタイルを基にしながら、カレンダーによる進行でゲームが進行するようになり主人公は日中は学園内の仲間と交流しながらコミュニティの力を高め、それによって自分の中にある多面性(アルカナ)の力を高め、より高位のペルソナを使役できるようになるという流れ。
当時は日常アニメが氾濫する前夜。このカレンダーのシステムによりより日常に近い描写を行いながら、非日常を際立たせる手法に加えて、キャラクター描写や学園描写がより顕著になったとも言えます。
この流れを受けた4作目ではシリーズ中でも唯一の舞台を田舎町に変え、殺人事件の犯人を追うというシリーズ中でも1・2を争うほど青春色や仲間内の絆が強調される作風が受け、シリーズの人気を不動のものにしました。
国内でも根強い人気を経てスピンオフが多く発売。また後に伝統的なRPGが国内に比べれば浸透しずらい傾向にある海外でも大きく評価されていき(恐らく日本の学園生活にスポットを当てた点がより新
鮮だったはず)
こうした流れは従来のファンからは賛否あったものの。もともと国内のコアなファンに支えられた女神転生=アトラスのゲームというイメージだったものがカジュアルな新世代のRPGとして世界的にも
高い注目を浴びるようになったとも言えます。
現在舞台ならではの社会風刺性
初代では大人(社会)との対立が1つの軸となり、2作目では2部構成の前半が学生キャラメインで後半の罰では社会人キャラメインとなっていました。3以降ではストーリーの流れもそうなのですがダンジョン探索パートとは別の放課後のパートでアルバイトなどを通じて大人キャラと接する事で、大人キャラや社会との関りがクローズアップされていく構成になっています。
その流れは正しくジュブナイルともえ言えるし、学園物を通じて大人社会にも通じる普遍的なテーマや社会風刺に踏み込んでいるともいえ、現代人の多くに刺さる作風にもなっているのが上手い特徴だと思っています。
誰もが社会に出る前夜の学生時代を思い出し、自分の原点に立ち返ることが出来るような流れになっているのですね。
そして、つづくシリーズ5作目。本作ペルソナ5Rではこの社会風刺性に加えてシリーズの由来となっている用語心理学的な意味での社会的に纏う仮面=ペルソナにもより踏み込んだ内容に収まっています。
また原点である女神転生シリーズのダークな流れにやや回帰した印象もあるのです。3作目以降では主人公=転校生という設定が伝統になっていますが、今作では冤罪の罪で保護観察中の主人公が、元の学校から転校してくるというヘヴィーな内容。
これを受けて、理不尽な社会(大人社会との倫理面)との対立、また移ろい安い大衆心理なども描写され、パワハラ教師や盗作疑惑、ブラック企業の内容や最終的に政治汚職にまで踏み込んでいきます。
従来のシリーズのコミュニティは今作ではコープとして描かれ、そこで触れる大人達も教師の理想も見失っていたり、スピリチュアル詐欺や医療事故など黒い事件に巻き込まれ、本来の自分を見失っている人物が多く登場します。
主人公パーティーはそんな社会に反抗し、反逆の象徴となるペルソナを身にまとって戦う事になる
のですがそれが世界各国の義賊的なモチーフのキャラばかり(アルセーヌルパン、キャプテンキッド、石川五右衛門、怪傑ゾロなどなど)これが実に痛快で
今作ではピカレスク的な作風になっていて何が正義かを問いかけるいわば「必殺仕事人」的な葛藤
もテーマの1つになっています。
ゲームシステムとして社会を学ぶ
国産RPGとして著名なファイナルファンタジーシリーズは、RPGの原点であるウィザードリィが提示した職業としてのキャラクターの役割(戦いに通じた戦士や魔法に優れた魔法使い、素早く動け罠も解除できる盗賊などのクラスの概念をいつでも変更できるジョブチェンジシステムを産み出しました。
そして、1つの職業で戦闘を重ねるうちにその専用のスキルを固有の「アビリティ」として習得し、別の職業に変更してもアビリティをセットする事で、魔法を使える戦士キャラなどのカスタマイズが可能になっていました。
そして、初期ジョブは3作目ではたまねぎ剣士、5作目ではすっぴんというジョブになっているのですが、ゲーム中の最強装備が唯一装備できる最終レベルまで育成するとパラメーターも最強になる「たまねぎ剣士、」最も多くのアビリティがセットできるのが「すっぴん」となっています。
これは様々な職業を経験し、本来の自分に立ち返った時に最強の姿になるというメッセージが込められたもの。そして、これらジョブのアビリティは現実でいえば職業を跨いだスキルであり、いわば縦の力とも言うべきものです。
本作ペルソナではバイトや放課後の友人との「コープ活動」で様々な人と関わる事で彼らの人格が自分の中に芽生え、心の力が高まり固有のアルカナの力が増え、より高位のペルソナを使役できるようになります。
これは現実で言えば社会性という横の力を表していますが、面白いのはペルソナは発動に条件があり、本作の場合では「社会の理不尽への怒り」がそのトリガーとなっている事。その前提条件を忘れて私利私欲や名誉に走ったり、また本来の自分の人格や願望を「否定」するとペルソナは暴走するという設定になっている事です。
つまり多様な人と関り、様々な個性や特技や趣味をその影響から自分に取り込んでも、それが他人の個性や趣味の借り物ではなく、あくまで自分個人の個性や綺麗な部分も汚い部分も含めて「これが自分」という確たる自我がないとペルソナは暴走してしまう。
FFシリーズの最強となるのが本来の自分=たまねぎ剣士やすっぴん、である事と同じく。非常に社会的且つ熱いメッセージが育成システムの背景に隠されているのですね。
ペルソナとは社会的にまとう仮面の事で心理学用語から来ており、もともとシリーズは裏テーマとして心理学や自我の問題を常に内包していました。本作では人間の心理に潜入して、改心させるという心そのものをテーマとし、扱うテーマも社会的な理不尽への抵抗となっている事からシリーズでも特にこの根本となるテーマがくっきりしたものと仕上がっていた気がします。
大人と子供の対比としてのテーマは2作目が、ジュブナイルとしては1作目や4作目が特に優れており、現在のシリーズの個性はほぼ3で確率されたようなものです。しかし、本作はそれら全てのテーマが個々のタイトルに負けないほどに強く、また女神転生シリーズ特有のダークさも健在。
スタイリッシュなメニュー画面や都会的な演出もシリーズ屈指で、社会性や風刺性はシリーズでも1番のものかもしれません。世界的に人気が出たのも納得の、ゲームそのものでもう1つの現実を体験できるほどのスケール感や投入感を内包した作品です。
ゲーム中で行うカレンダーを跨いだコープ活動や理不尽な社会への反撃のシナリオは現実世界での行動力を促す効果まで備えているものだと思います。個人的にも4作目と並んで、大好きな作品となっています。


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