邦楽に留まらず、グローバルな音楽でセールスだけでなく音楽性で高く評価されている邦楽を聴いてみたい…そんなニーズにふさわしい1枚を紹介します。
今や日本を飛び越えたミュージシャンズミュージシャン
FISHMANSは1999年にフロントマンで作詞・作曲も手掛ける佐藤伸二が亡くなって以降も元メンバーの手に寄り定期的に復活。特にミュージシャンから深く敬愛されていて、彼らが後期に残した3部作、通称世田谷3部作は音楽誌などが行う名盤などではしばしば上位にあがってくる常連のバンドでもありました。
しかし音楽通には広く知られていながらも、ミリオンセールスなどの大きなセールスとは無縁だったため般的な音楽シーンにおいては知る人ぞ知る…という存在でした。
そして、2010年代後半、サブスクリプションの時代になると日本を飛び越え海外にその名を知られることになり。アメリカの音楽レビューサイトでは軒並み高評価、i-tunedストアでは世界のあらゆるバンドのアルバムランキングで彼らの後期のライブアルバムである「男たちの別れ」が17位にランキングするほどの人気を得るに至ります。
また韓国ではFISHMANSのサウンドに影響を受けた次世代バンドも育っていると聴きます。国内ではその後もフォロワーと呼ばれるバンドも幾つも登場してきました。
2020年には生前の佐藤伸二のインタビューや関係者の証言をまとめた劇場版/FISHMANSが公開され大きな話題も呼びました…そんなFISHMANSですが日本と海外ではやや評価されているアルバムに違いがあるのも面白い光景です。
音楽業界激動の90年代を駆け抜けたバンド
もともとFISHMANSはレゲエに重きをおいたポップなバンドとしてデビューしました。当時はそのカジュアルな佇まいや作風から、フリッパーズギターなどの「渋谷系」の括りで語られる事も多く、後期は所属会社がスピッツのいたポリドールであった事からポストスピッツとして見られることも多かったようです。
確かに特に初期のポップな感じを前面にだしたFISHMANSはどこか「渋谷系」的なシーンの立ち位置にいた気がします。しかし特に後期のダブや音響系に限りなく接近し、自分たちのスタジオで自由に作曲に興じるようになってからはより深遠な世界へ足を踏み入れる形になり、その詩世界の原型は初期から一貫して続いていたものでした。
また、彼らは中期にライブバンドとしてもめきめき実力を溜め、特に後期の唯一無二と言われたライブの空気感はその下地によって支えられてきたものでもあったと思います。
初期と後期の両方の匂いを内包した絶妙なバランスのライブ盤
ライブ盤としては、先に挙げたフロントマン佐藤伸二が最後にステージに立った「男たちの別れ」は名盤で、3人揃った最後のステージという背景のドラマもあり、言葉にできない彼岸のような空気感があるのですが、それゆえに聴くのに1段構えてしまう部分があります。
本作は、時期としては後期にかかるライブですが、まだそれまでのポップで躍動的なFISHMANSの匂いも色濃く。節目でエヴリデイ・エヴリナイトやSmilin’ Days,Summer Holidayなどの初期の楽曲を交えつつ「空中キャンプ」「宇宙・日本・世田谷」などの後期の楽曲が中心になっています。
さらにワントラック30分を越す大曲「LONG SEASON」も収録、初期の楽曲を後期のライブの空気感で演奏しながら後期の代表曲も並ぶという、稀有なライブ盤になっています。
FISHMANSは後期の楽曲だけでなく、特に達観した歌詞をポップスに乗せる作風は初期のころから飛びぬけたものがありました。それをより高い演奏で堪能できる…初期と後期のいいとこ取りをしているライブ盤で非常にお気に入りの1枚
スタジオ盤では後期の3枚、ベスト盤では空中・宇宙というオールタイムベストな2枚のアルバム、さらにライブ盤では男たちの別れがそれぞれ名盤として名高いですが、本作は1つのアルバムにして(2枚組ではありますが…)それらの空気を跨いだ作品だと思っています。


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