日本のアニメは今や世界に誇る一大ブームになった感がありますが、長い歴史の中で一際スポンサーの意向ではなく作り手の意向を重視した作品をリリースできた時代がOVA全盛の時代(80年代後半~90年代前半)と、ポストエヴェンゲリオンブームに沸いた90年代後半~00年代前半頃だったと思います。
その後アニメの数が飽和する事によって、作品の多様性はより増しましたが、ある種の作品の濃さは分散してしまった感もなきにしもあらず…アニメとサブカルチャーが融和していたような当時の自由な空気から生まれた典型のような伝説的な作品をレビューします。
OVAの実験精神を引き継いだ政策委員会方式と深夜アニメ
90年代末頃「新世紀エヴァンゲリオン」が幾度目かのアニメブームを起こし、それまではOVAで主に展開されていたスポンサーの意向よりもユーザーの要望を第一にした「作画や作家性に凝ったアニメ作品」群はおもちゃだけに限らず、キャラクターグッズやDVDやCDといったパッケージに寄り回収するという制作委員会方式が定着した事もあり、次第に地上波でもそれまでではあまり見られなかった作家性の強い映像作品も登場するようになりました。
この時期は音楽やゲームなども同様に、パッケージに基づいた商業展開が非常に活気づいており、まだDVDなどのメディアに移行する前夜(VHSの時代)ではありましたが、アニメもこれら音楽やゲームと言うパッケージと連動する事で、同様に高い作家性や実験性を持った作品をリリースする風潮が出てきていた時代でした。
そんな中、何かと話題を振りまいたのが本作serial experiments lainでした。OVA全盛の時代がハイクオリティな映像を追求したニーズに応えた作品だとすると本作は、クラブカルチャー、サイコサスペンス、インターネットの黎明期と言う事もあり、それら90年代後半のアングラ文化を混ぜ、哲学的なテーマまでに踏み込んだ踏み込んだ、まさに前衛カルトな作品に収まっていた作品。
これもまた当時の時代のニーズと政策委員会方式の普及による自由な作風の氾濫が後押しになって生まれた作品だと言えるでしょう。
90年代当時の雑多なサブカル要素が闇鍋的に詰められている
本作では普通の女子高生、玲音を主人公としその家族や学校の友人を取り巻く環境を舞台として始まっていますすが、集合無意識と言う哲学的なテーマを当時普及しだしたインターネットに準えて展開させています。
また都市伝説、ハッカー、哲学、サイバー空間、クラブカルチャーと90年代後半を取り巻く様々なアングラ要素が物語中のそこかしこに顔を出しており、いかにも深夜作品といった奇妙な味わいを演出しています。
一方でハード、ソフトウェア両面からはコンピューターマニアでないと理解できないマニアックな要素がほのめかされており、そこにさらに自我を巡る哲学的な話まで割り込んでくるので相当玄人向けな要素が入っています。
そのようにかなり考察していかないと全貌が見えてこない難解な作品でもありますが、今のSNS全盛の時代を先取りするかのように情報が一人歩きして、何が本当か全体像が分からなくなる現象や無責任に罵詈雑言を吐く人々などネット社会の行きつく先の問題を分かりやすく提示している面もあります。
ネットと言う異空間の中に自我が芽生えるという展開は攻殻機動隊を、主人公が自分のアイデンティティを巡って逡巡する様をエヴェンゲリオンを思わせ、扱うテーマは90年代的を包括していながら、その結末は後の00年代以降の作品を思わせるなど新しい展開を先取りしてもいました。
というように、その内容に触れても相当難解さと新しさが同居した、独特の味わいを持っていた本作。今見てもその奇妙な味わいと不可思議さは損なわれていません。これらモチーフに少しでも反応する方には刺激的な時間を提供してくれるアニメになるでしょう。


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