国産を代表するフリーシナリオ+王道をいく中世RPG!ジルオール・インフィニット+


ある世代に強く訴えかけるフリーシナリオ型RPGの傑作

海外のRPGに見られる重厚な世界観、冒険者として世界を巡るあの感覚。国産RPGの魅力的な登場キャラや幻想的な世界観、細かい育成システム…その2つを絶妙に混ぜたスタイルのRPGを求めている方に
最もお薦めしたいのが本作となります。

インディ―ゲームや3Dダンジョン系統に、その流れを残す国産RPGはいまも健在ですが、フィールドを巡り各地を冒険していく王道スタイルのRPG。そしてその制作に一定の人数のスタッフが関わった、言うならばメジャーシーンのスケールのものを求めている方も多いのではないでしょうか?

かつてはRPGにおける1つの潮流であった「フリーシナリオ系」。ゲームの大容量化と海外産のRPGも台頭してくる流れの中で、国産RPGにおけるその系譜が徐々に廃れてしまったこともあり、フリーシナリオ系の国産RPGがまだ細々とリリースされていたPS1・PS2時代に特に大きな存在感を誇った本作「ジル・オールインフィニット」は、時を経ても色あせない立ち位置にあると思っています。

自分が学生時代の頃、家庭用のゲームハードでは、RPGが一代ジャンルを築いていた時代でもありました。一方で当時は「ウィザードリィ」など海外発のテーブルトークRPG(いまのRPGの原型になったボードゲームのようなもの)に端を欲するRPGも地味にファンを掴んでおりました。

小説界隈では「ロードス島戦記」などが、そのTRPGを基にした作り込まれた世界観とファンタジー描写を売りにした作品として人気を誇ってもいました。ライトノベルの黎明期ですね。

かつて一世を風靡した「フリーシナリオRPG」という潮流

当時「ドラゴンクエスト」を発売していたエニックスのライバル会社でもあった、スクウェア(現在では両社は合併しましたが)が看板タイトルである「ファイナルファンタジー」シリーズに次ぐ人気シリーズとして力を入れていたのが「ロマンシングサ・ガ」シリーズ。

フリーシナリオRPGを謡った「ロマサガ」。それまでのRPGが(冒険の合間に訪れる街やダンジョンの順番が多少前後する程度の自由度はあったものの)基本的には大きなストーリーの流れに沿ってシナリオが展開していく流れにありました。

そこを冒険の順番や合間に挟まれる選択肢の幅をより広げ、複数登場する主人公がスタートの時点でバラバラに、育成面も従来のRPGのレベルに紐づいた育成とも差別化された、装備した武器や魔法そのものに紐づいて成長していく「熟練度性」を導入するなど、極めて挑戦的な内容に仕上がっていました。

ロマサガは一面ではドラクエやFFといった既に有名になっていたタイトル以上にRPGの源流となった「テーブルトークRPG」の再現に拘ったタイトルだったと言ってもいいでしょう。これがきっかけとなり、テーブルトークRPGに寄せたRPGが次第に数を増やしていきました。

やがて海外産のRPGも台頭してくる流れの中で、世界中で大ヒットしたTESシリーズの4作目「オブリビオン」や5作目「スカイリム」において、キャラクターの性別や種族、顔を自由に決められるキャラクターメイキングに始まり、メインクエストとは別に様々なギルドに自由に参加できたり…

世界の端までを描写したオープンフィールドの世界の中で、本編とは関係ないダンジョンや街を次々に見つけていき好きなクエストにも首をつっこめるという「TRPGの世界を完全に再現したRPG」はここでほぼ1つの完成形を見たとも言えます。

本作「ジル・オール」もまたフリーシナリオを謡い、これら本格的な中世RPGの世界観を持つテーブルトークRPGを意識した流れにある作品です。しかし、先に挙げた海外のRPGとはやや趣が異なり、かといって国産のややカジュアルなRPGとも違う独特のスタイルに収まっています。歴史ものを多く手掛けたKOEIが作ったRPGだからこそ行きついた形なのかもしれません。

かつて国内でブームを呼んだ「ロードス島戦記」などのファンタジーを舞台にした冒険小説や戦記小説。「ウィザードリィ」などのTRPGを下敷きにしたダンジョンRPG。そして「ロマンシングサガ」シリーズなどが追求していったフリーシナリオRPG。これら3つの流れに連なるRPGとして、1つの模範解答のようなタイトルに仕上がっていたのです。


80年代~90年代の国産ファンタジーの流れを強く思わせる堅実な作り

まずスタート地点で自分の性別や幾つかの質問に答え、どのエリアからスタートするかを選択できます。スタートするエリアによって導入部のストーリーがだいぶ変わってきますが、それが終り最初のリベルダムの街について以降はどのスタート地点から始めてもだいたい同じ流れとなります。

同じ流れといってもどのパーティーで仲間を組むか、様々な国の思惑が赴く中で一冒険者としてどの国の勢力に就くか、パーティーキャラからイベントのみ介入するノンプレイヤーキャラも含めて、友好度設定がありどれだけの期間一緒にいたか、あるいは話しかけたかで無数のエンディングに分岐します。


導入部のイベントが終わった後にギルドで冒険者に登録後、冒険者ギルドでお使いクエスト(護衛やアイテムの配達など)をこなし、これによって無数のダンジョンが解放され行ける範囲が広がっていきます。このダンジョンの名称が「求めしものの荒野」「竜骨の砂漠」など往年のファンタジー小説を思わせる名称で世界観の投入度を高めてくれます。


主人公やパーティーキャラは成長させるとパラメーターに応じて独自の「ソウル」を宿せるようになり、宿したソウルで戦っていくうちに様々なスキルが解放されます。細身のキャラクターを力技を多用する脳筋キャラにしたり、逆に筋骨隆々のキャラを魔術師キャラにするなどかけ離れたスキルへ育成させることも自由。


このあたりは育成のタイプは違えど、熟練度システムの導入でキャラクターの個性や特技を自由に育成発展できたロマンシングサガシリーズを彷彿とさせます。

またキャラクターも美男美女揃いで、一癖あるキャラも多く男女問わず必ず惹かれてしまうキャラクターが出てくることでしょう。このあたり乙女ゲーの走りとなるアンジェリークをリリースした過去のあるKOEIの底力が地味に発揮されている所でもあります(笑)


また、さまざまなキャラクターの思惑が渦巻く歴史群像劇。魅力的な響きで冒険心をくすぐられる名称が付いたダンジョンや施設が溢れた世界観、異種族が入り乱れて登場するこの感覚は、指輪物語を下敷きにしたロードス島戦記など古き良きライトノベルを彷彿とさせる流れになっています。


生き方に惑う女ダークエルフ、男装のボーイッシュな巫女キャラ、頼りがいのある貴族の兄貴キャラ。長髪で重い甲冑に身を包んだ伝説の英雄、尻丸出しで無敵感漂うビキニアーマー風女将軍などなど、往年のファンタジー小説や戦記物のアニメでみたような面影をどこかに残したキャラ達が本作独自のアレンジの下、一堂に介している感もあります。

何よりキャラクターデザインは「ウィザードリィ」やこの頃のファンタジー作品の数々でイラストレーターを手掛けていた末弥純氏。重厚な中世ファンタジー溢れる世界観に違和感なく溶け込みながらも、キャラクターの魅力も存分に引き出す事に成功しています。

総じて80年代後半~90年代半ば頃に一世を風靡した、本格派な国産ファンタジーの世界の見本市のような一本に収まっているのです。

幾度かのリメイクを繰り返すも、微妙になってしまっている要素はそのままな面も…

本作はPS1の時代に1作目が出てそれをベースにグラフィックを大幅に強化し音楽の多くを入れ替えた完全版のインフィニットがPS2で。そこからさらに追加イベントや追加キャラ、追加エンディングも加えたインフィニット+がPSPで…計2回のリメイクが行われています。

欠点として、全体的に地味で人を選ぶタイトルであるのもまた事実。膨大なイベントやフラグをこなす関係もあってか戦闘のバランスがかなり極端(適正レベルに通じていないと攻撃がなかなか入らず、逆に適正レベルに到達するとあっという間に敵を倒せてしまいます)イベントもキャラクターのモーションが大ぶりなためか、どこかもっさりした印象を残してしまっているのは事実です。

エンディングやIFストーリーに入る分岐などは辿っていくと膨大な分かれ道へと派生していきますが、大筋のクエストがそこまで大きな変化に飛んでいる訳ではなく、冒険者ギルドのクエストは地味なお使いばかり。凝ったイベントや事件はほぼ歴史イベントに介して起こるものに限られます。


そのため戦闘バランスの改善や冒険者ギルドのクエストもボリュームやバリエーションが富んだものになれば文句なしの傑作になるのですが…こういった点は何度かのリメイクを経ても大きく改善される事はありませんでした。


しかし、国産で自由度を追求したRPGの中では知名度も高く記念碑的な立ち位置にあるタイトルではないかと思っています。細かい欠点も本作独自の魅力が勝って帳消しになってしまうほどの独自性を持っているのです。特に大味ではあるものの戦闘シーンの手軽さは前述したように、膨大なマルチエンドが用意され、周回プレイの頻度が高くなる本作に置いてはちょうどいいアクセントになっていたとも思います。


かつての国産ファンタジーブームの特有のムードを好む方。本格的で自由度の高い、国産RPGを求めている方。ウィザードリィなどの硬派なRPGの世界観を好むものの、ダンジョンRPG特有のシビアさに壁を感じていたり、同様に海外産RPGにどこか敷居の高さを感じている方…

硬派な国産RPGを多く出がけるフロムソフトウェアのタイトルはゲームバランスがコア過ぎて手が出せないという方(笑)(←自分が割とその口です)などには、是非一度手に取って欲しい記念碑的な作品です。ニッチだけど意外と潜在的な需要は高そうで、それでいて替えになるタイトルがないのですよね。

現在遊ぶには…

大手のコーエーテクモが関わりながら、いまだ配信の気配もない本作。一番手に取りやすいのは比較的数も出回っており、安価で手に入るPS2版。また完全版であるインフィニット+はPSPでのリリースですがvitaのタイトルとしてダウンロードにも対応しております。

もしvitaが手元にあるのなら、PSP盤にあった読み込みの問題が解消されているため、vita版をお勧めしたいです。VITA側からプレイステーションストア経由で購入が可能です。読み込みを気にしなければこちらも安価で手に入るPSP版を実機で遊ぶ方法もアリでしょう。

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