普遍的な都市化の闇を描いた作品
近代化が進んで都市化が進むと次第に人々の中には現代の病理とも言うべき異様な感覚が生まれてきたりもします。ベトナム戦争後の混乱に揺れるアメリカ社会で、アンチヒーローを謡った「アメリカン・ニューシネマ」のような作品群が台頭する中、後々までカルト的に語られる本作もすい星のごとくあらわれました。
数年前、テロリストの心理をヒーローのように描写し物議をかもしたJOKERが話題になった時、本作に言及する声もたくさん聴かれました。それだけ普遍的なテーマ、そして今に繋がる時代の問題点を先取りしていた映画だった気がします。
ダーク版ロッキー?
ロバートデニーロ演じるトラヴィスはベトナム戦争から帰還後、ややノイローゼ気味になりタクショードライバーとして淡々と仕事に励みながら同僚と親しくする事もなく、ただ腐敗したニューヨークの街中を夜な夜な流しながら、腐敗した世の中への怒りを募らせていたのでした。
気に入った女性が出来たら強引にアプローチし、その相手をデートに誘えば空気の読めない行動で仲違いしてしまう。そうしてついに政治家の腐敗が許せなくなったトラヴィスは大物政治家を暗殺しようと決心し、淡々とトレーニングに励み銃を手に入れます。
けっきょく政治家への接近はシークレットサービスに阻まれ未遂に終わり、その後常連だった未成年の女の子が匿われたモーテルへ殴り込んで一味を虐殺、瀕死の重傷を負うもトラヴィスは生き残り一躍ヒーローに躍り出るのでした。
ヒーローとなったラストシーン…かつて仲違いした女性からの連絡もうわの空で変わらず夜の町をタクシーで流すトラヴィスの表情はどこかこの世から離れてしまった浮世離れした雰囲気が感じられるのでした。
同じくアメリカンニューシネマ的な背景からスタートし、ドライな人間関係や都市の暗部を描く事からスタートしたシルヴェスタ・スタローンの出世作でもあるロッキーが一種の「奇跡」を描いたのだとしたら、本作は日々に埋没する市井の人々の日常や冷たさ、そして誰の心にもある暗部などの異質なものにあえて焦点をあてた映画だとも言えます。
実は何も解決していない…
実は本作で描かれる不器用で、空気が読めず妙に神経症なところがある種のADHD的な人物像はいつの時代も共通して存在しているものではないでしょうか。そんなどこか不完全な人物像と退廃的な都会や即物的に生きてしまっている一見、「健常的」だと思っている都会の人物たちが実は似た者同士と言う事で絶妙に対比的に描かれているのですよね。
そして、問題の根源は何も解決されていない。ある意味で非常に普遍的なものを描いてもいるし、現代社会を取り巻く問題は半世紀近く経っても何も変わっていない事に愕然ともする。どこか達観した視点を持つドライで哲学的な映画なのだと思っています。
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