コミック史に残る哲学的ダークファンタジー「ベルセルク」

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日本の漫画表現の強みである緻密な描き込みと、タブーをものともしない哲学的なストーリー展開。そこに、かの「デビルマン」も彷彿とさせるショッキングな展開も加わり、日本の漫画史上でも屈指のスケールと衝撃度を併せ持つダークなファンタジー漫画…それが本作「ベルセルク」です。


読者の心と人生観に必ず影響を及ぼす…日本を代表するダークファンタジー


昨年の作者の突然の逝去により再びその動向に注目が集まる日本を代表するダークファンタジー。ここ数年は特に寡作になりながらも他の作品と並行しながらゆっくりと物語は畳む方向に進んでいたようで個人的にも話が進まないここ10数年の展開にもやもやとしつつも、単行本でいう40巻手間の時期に、物語の進展が見られ始め、今後の展開に注目していただけに大変残念な思いがあります。


しかし、作者の盟友である森恒二氏とアシスタント達によって今後のストーリーが進められるようになり、黄金時代編の劇場版を再編集したアニメ版が放送されるなど、新しい流れがまた入ってくるようになりました。


個人的には思春期に読んだ漫画の中でも一番衝撃を受けた漫画であり、ガッツとグリフィスがどういう結末を辿るのか。その結末はいつか必ず目にしたいと思っています。


男子の成長の物語と少女漫画の繊細さも併せ持つ


当初は北斗の拳のような劇画調の出で立ちで表現されたガッツと、異形の魔物の戦いがフューチャーされたダークファンタジーの要素が強く打ち出されていましたが、ゴッドハンドの出現と併せて物語が過去に遡った黄金時代編に入ると、孤独だった主人公ガッツのアイデンティティの確立と鷹の団の快進撃。キャスカや仲間との確執や邂逅。そして団長であるグリフィスとの絆など王道の成長譚が描かれるようになっていきます。

しかし、読者はガッツとゴッドハンドとなったグリフィスが対峙する流れや暗黒の剣士となって戦うガッツの姿をそれ以前の展開で、既に見てしまっています。嫌でもその後の展開が気になり先へ先へと話に引き込まれてしまうのです。この見せ方が実にうまいのですね。


また一見すると男の子の物語に見えてしまいますが、繊細な心理描写や言葉にしない(できない)キャラクターのすれ違いを丁寧に描いた点、線の細い描写も手慣れた作者の手腕により、女性を引き付ける繊細さも内包したマンガにもなっているのです。ジェンダー的に言えばホモソーシャル的なガッツ・グリフィスの関係とそれに割って入るキャスカの対比も絶妙です。


暗転しながらも力強いメッセージと明暗のコントラストを描いた骨太の物語


物語は王道の「黄金時代編」の中でもさらに二転三転し、ガッツは己のアイデンティティを獲得するため鷹の団を抜ける、ガッツに言葉以上の信頼を寄せていたグリフィスはガッツに始めて打ち負かされた事で色々な歯車が狂い始めます。


最終的に鷹の団は衝撃的な結末を迎えることになりますが、そこに向かう展開の切なさ、その後の容赦ない展開…それを受けてのガッツの再度の旅立ち。また、まだアニメ化になっていないその直後のロストチルドレン編のそれまでの展開を絶妙に含めたこれまた無常で切ない展開など、およそ単行本20巻付近までのベルセルクは名セリフ・名シーンの連続でした。


それは誰もが見る甘い未来への希望と、それを一蹴する現実の重さの対比にも外なりません。そして、取るに足らない人間が神の定めた因果律に歯向かうストーリーでもあるのです。ある意味、哲学的でもあり誰もが辿る人生の追い風も、不条理も、容赦なく描いた物語とも言えるでしょう。

完結が危ぶまれながらも物語は結末に向かって進む

「断罪編」を経て、新しい国を作ろうとするグリフィスサイドのストーリーと、物語当初から同行している妖精のパックに加え、記憶を失ったキャスカに4人の新しい仲間と「魔のもの」が纏う鎧を着たガッツがエルフヘルムに向かうという展開が同時進行で描かれるようになってからおよそ15年ほど。

不定期連載ペースで巻を重ねたベルセルクですが、この間に物語の進行が非常に緩やかになり、それに反して書き込みはどんどん細かくなり、作者の完璧主義が祟っている面も見られ、完結が危ぶまれていました。しかし、再度のアニメ化の話が進行したあたりから本編はついにエルフヘルムに到着。

同時にグリフィスサイドの物語にも変化が見られたのが30巻代も半ばを越えたあたりからでした。しかし、作者の突然の逝去により完結は最早望めないのではと思われていましたが…物語は折り返しを過ぎ、終盤に入っているとの事。

生前に作者三浦健太郎氏から話の筋書きを聞いていた盟友の森恒二氏とアシスタント陣によって、物語は引き継がれることになりました。どんな結末へ進むのか、今後の展開をゆっくり見守りたいと思っています。

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