生きる事の浮き沈みを淡々と綴った「LIFE STORY/THA BLUE HERB」

MUSIC

日本のHIP HOPのシーンにおいてBLUE HERB以前・以降で括られるほどの影響力を誇る2人組。THA BLUE HERB。BOSS THE MCとDJ ONOの2人からなるTBHRは、まず東京というシーンの対立軸としてのホーム(札幌)というシーンを明確に出した事が革命だったと言われています。HIPHOPというジャンルに馴染みがないリスナーからも支持者が多いと言われる、彼らの魅力が詰まった転換点とも言える1枚が本作ではないかと思います。

HIP HOPの枠を超えた支持を受ける

その出自から地方対東京という対立軸を武器にのし上がってきたため、初期から一貫して「自分たちはオリジナルだ、マイノリティだ」と主張する姿勢は一貫しており、その点は王道のHIP HOPマナーに乗っ取ったギャングスタ・ラップにも通じるものです。

しかし次第にそれに留まらない多様な表現を深めていき、現状を冷徹に捉えた視点や人生賛歌とも取れる方向に徐々に進んでいったのでした。同様に当初はむき出しの荒々しさと呪術的とも称されたトラックも、その魅力はそのままにより繊細な表現や踊れる事を意識したものまで、徐々に多様性を深めていきます。

特にロック方面での支持者も異例なほど多い事で知られる存在です。自分もロック畑から知った流れです…

多様な展開を見せるトラックの数々…

「アンダーグラウンドVSアマチュア」で1stで見せた東京対地方というHIP HOPシーンの中核を抉り出す王道の曲をリリースしつつ同シングルに収まった「未来世紀日本」ではSF小説を思わせるような緻密な世界観を展開、同じ路線では2ndアルバムに収められた「路上」などもあり、こちらはカルマの繰りによる無常観を強調した内容に収まっていました。

いっぽうブルーハーツのトリビュート版に収録予定のものが見送られ、シングルとしてリリースされた「未来は俺らの手の中」ではまさに階級社会のような現代社会で目標に向かってもがく若者像を自身のリアルなドラマと結びつけて描くパンクバンドとHIP HOPのテーマの融合とも取れる高度な楽曲に仕上げていたのでした。

ある種、HIP HOPというジャンルも逸脱した表現に…

彼らのテーマは実は普遍的なもので、シーンでの存在感やHIP HOPマナーに乗っ取った自分たちはマイノリティでオリジナルな存在である、という主張に一件目を奪われがちですが、一貫している主張は日常に根を張り、淡々と表現力を積み重ねていくストイシズム。そのような表現をつづけていく同業者へのリスペクト…つまり人間賛歌で、ある意味非常に硬いものをテーマにし続けています。

ともすれば説教クサくも聞こえてしまうテーマなのですがそれまで積み上げてきた表現を内包しながら、特にその根本のテーマと正面から向き合い、現在にまで至るアイデンティティを完全に確立したと言えるのが本作だったと思えます。

本作でも、SFや歴史、人生観、後進への思いなど、多様なテーマを取り扱いながらも、ポエトリーディング的なスタイルに落ち着き、それが非常に聴きやすいものに収まっています。インスタントに聴き流せるタイプではないのですが、淡々と楽曲に向き合う事が好きな方には必聴の1枚。

特に様々な情報が溢れ、生きづらさがますます増していく令和の現在、彼らの楽曲はより切実にリスナーに響くようになっているのでは…と思います。

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