最早説明不要に有名な漫画ですが、本当に30数巻ほどのボリュームで名作漫画はないかと言われればすぐに名前をあげたいほどに名作だと思っているスポーツ漫画をレビューします。
説明不要のバスケ漫画の金字塔
自分はそこまでバスケに愛着もないし、連載中はブームもあって目を通していましたが(画力があるため絵は大変好みでしたが)リアルタイムでの思い入れはそれほどない漫画だったんですが…
後々に単行本で最終巻まで一気見して、改めて名作だなーと思ったスラムダンク。作者の画力が連載中にどんどんあがっていったとか、適度に挿入されるギャグがいい緩急材になっているとか、主人公がバスケ初心者なので、読者も共感しながら入れるようになっているとか色々とポイントははあるんですが、当時のスポーツ漫画で見ても絶妙なリアリティに収めているバランス感覚が特に素晴らしい漫画。
安易な少年誌の展開に逃げなかった積み重ねのドラマ
キャプテン翼のような非日常的な必殺技を繰り出すスーパー系なスポーツ漫画に比べると、本作は際立った必殺技のようなものはなく…とはいえ現実では、セミプロ並みの身体能力を見せ超高校生級のレベルではあるという、漫画として逸脱しない範囲でのリアリティがあります。
登場人物を取り巻くドラマもあくまで現実に留まるレベルで、過度な逸脱はしない。しかしバランス的にスポ根にも青春にも寄りすぎない。どれもほどほどの範囲で取り込まれているバランスは令和にも古びていません。タッチ以降、熱血や汗の匂いが古臭いと言われるようになりラブコメ要素と融合する事もまた増えていったスポーツ漫画で、本作のキャラクターたちは後半にいくほど過剰に汗をかきます。
しかし、そこにはかつての熱血ドラマとは違う、しかしラブコメにも触れていない、絶妙なドラマのリアリティがあってこそ、懐古的なスポコン要素も臭みがなく挿入できるのですね。画力の力もありますが、本作のバランス感覚は本当に絶妙だったと思います。
そのドラマは1つ1つの描写をコツコツ積み重ねていく事で、深みを生んでいます。湘北メンバー各々も特別に仲がいいという訳ではないのですが、それぞれが劇中で大きく成長し、節目で見せ場もあり、その丁寧に積み上げてきたドラマがラストの山王戦に向けて怒涛のクライマックスに流れ込んでいくのがリアルなのです。
積み重ねた丁寧なドラマがラストで結実する気持ちよさ
そして、セリフもほとんどない動きだけで表現したクライマックスの一連の流れに、劇中始めて流川にパスを出す桜木というクライマックスに結実していきます。山王ですべてを出した湘北が次の試合であっさり…というのもまた潔い。
続くバガボンドも似た印象を持ってます、一瞬一瞬を積み重ねる描写に重きを置いた点で題材はかけ離れているもののドラマの根底には共通のものが流れています、長く続く合戦シーンもスラムダンクの試合と同じく、連載で合間合間だけで見ると見せ場も薄くもたれ気味なのですが、それが単行本で読むとぐっとドラマの密度があがる…という流れ。
その積み重ねたドラマの果てに、最後の農業編のあたりにいくと精神的にも凄い領域までいってるのですが…本編が止まってしまっているのが非常に残念。ただ題材がやはりスラムダンクほどにはキャッチ―ではないので後に行くほどに展開は重くなっていきます。
しかし、そこで描いたテーマは禅や老荘の思想の域に達しており、まさにある種のストイックな姿勢を貫いた先にある思想や考え…感覚的なものを絵としてより説得力あるヴィジュアルに起こすことに成功していたと思います。その先が描かれないままになっているのが残念ですが…
20数年ぶりに新作アニメとして公開されたFIRST SLUN DUNKもロングランで大盛況になっていますが、決して派手に目立つような流れではなく淡々と成果を積み重ねる事で、続編や商業主義に頼らない骨太のコンテンツを産み出す…作者の井上雄彦自体が創作に対して大変ストイックで、その姿勢が作風にも貫かれていると言えるのかもしれません。


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