村上春樹のエッセンスが詰まった3章構成の名作「ねじまき鳥クロニクル」

BOOK1(漫画・小説)

村上春樹の作品は出せば毎回、話題が起こり、ノーベル文学賞候補として取りざたされるのが定番のような流れになっています。しかし、1作で長い長編も多く、熱心なファンは初期作を進める傾向もあり、何から読めばいいか分からない方も多いと思います。個人的な村上春樹作品の中でも特にイチオシの…初期の作風から、最近の作風に繋がる転機となり、長さも程よい長編を1作レビュー致します。


作者の持つ寓話性とサスペンス性が融合


村上春樹というと極めて現代的な淡々とした描写と、ほのかに漂うファンタジー(何かのメタファー)
はっきりとした答えは示されず、読んだ後に各々が解釈することで、答えを見つける作風を貫いている
と思います。

文学でありながらミステリー的な考察が出来る余地も多い作風なのですよね。メジャー作家なので、その内容を巡って賛否も起こりやすい作家ですが、読書の面白さを打ち出した内容だと言えます。


これが否定的に取られる事も多いのですが、相変わらず妙に達観した主人公と、謎だらけのヒロイン達、そこだけ妙に生生しいセックス描写…それらが謎の多い展開の中で次々に展開されていきます。


本作は自分が読んだ村上春樹作品で一番バランスの取れた作品のように感じます。羊を巡る冒険のあたりじゃら、形作られた作風を「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」で解体し「ノルウェイの森」で人間ドラマに比重を置い印象を持っています。


本作で、それらのエッセンスをより膨らませた長編として発展させたような気がします。このバランスは、後の1Q84に連なる流れですが、あそこまで長くはならず…。長編としてのほどよい長さと、提示されたテーマ性の多さ


初期の鼠3部作のあたりで作品のベースが固まり、ノルウェイの森のあたりで恋愛要素も強くなってきた春樹小説の傾向ですが…毎回、必ず異世界的なものが物語に入り込んでくるのです。


鼠三部作であれば羊男、世界の終わり~ならやみくろ、1Q84ならば異世界などどこか寓話的な要素と私小説的な内容が同居し、現代的な文学でありながらミステリーやサスペンス、恋愛など様々なものが絡んでくるのが特徴。


本作でも消えた猫、水のない井戸、出口のない路地、ノモンハン事件、さらに失踪した妻、などキーワードとなる単語を並べるとまるでミステリ―の様相。創造して楽しむ余地と予測のつかないストーリーテラー、また比較的誰でも共感しやすい良い事も悪い事もそれなりに経験しているどこか達観した主人公…読みやすい文体などで読者を少しづつその世界に引き込んでいきます。


本作ならではの要素とは


本作では、これまでの村上作品にはない新しい要素も取り入れられており、それが戦争や暴力といった描写。またそれによる汚れのようなものを暗喩的に描写しています。


それまでの作品では死は身近なものでありながら暴力的な描写はユーモアも交えてさらっと受け流されていた気がします。本作に置けるノモンハン事件に関する、あるエピソードには淡々と描写されながらも非常に凄惨な内容で、ここは作者の新境地とも言えます。

また村上春樹作品で重要なモチーフになっていく井戸に落ちるという行為を、最初に大きくクローズアップした作品が本作ともなります。


また土地や淀みなど、観念的でスピリチュアル的な要素も強く打ち出されています。一方で何かしらの喪失感を抱えた登場人物たち、日常を平穏に過ごすことを第一としている主人公や前触れなく、突飛な行動に走ってしまう女性たちなど、他にもこれぞ村上春樹といった要素も散りばめられています。

短すぎず、長すぎもしないほど良い長さもあって、自分が読んだ作者の小説の中では一番バランスよく感じられた1作になっています。読後に単独の章を切り取って読んでも、何かしら思う所のある、そんな内容になっています。

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