洒落た会話と切ないストーリー。日常的ミステリーの傑作「アヒルと鴨のコインロッカー」

BOOK1(漫画・小説)

謎めいた展開と洒落た会話、ラストで明かされる切ないストーリー。上質な日常的ミステリーの面白さとほんのりした感動が詰まった一冊です。

人気作家の長所を混ぜ合わせたような作風

作者の伊坂幸太郎は、特に初期の頃は村上春樹を思わせる日常に非日常的メタファーのような不可思議なものが混ざっていく過程を(文学的センテンスで埋めていく村上春樹に対して)トリッキーな構成で見せるのに秀でた、秀才な作家という印象を受けました。

複数のキャラクターが入り乱れる群像劇が奇妙な繋がりを媒介にして1つに終息していく(映画で言うとロックストック&トゥースモーキングバレルズ。ゲームで言うと428のような)凝った構成が光るラッシュライフなどはそれを文章一つで明快に見せていく手法に唸らされました。

同じ手法はたくさん用いられているのですが、その語り口が非常に軽妙でスタイリッシュだったんですよね。

また「となり町戦争」の三崎亜紀のように、極めて日本的な空間が気が付いたら奇妙な出来事によって非日常にスライドしていた…そんな絶妙な「ズレ」を描くのも秀逸なのですよね。世にも奇妙な物語感とでもいいましょうか。

一方でカタストロフィが起こってしまった後の世界が舞台だったり、別作品とのさりげないリンクを(スターシステム?)展開していたり、主人公が突飛な職業を生業にしていたりと…毎回舞台仕立てから引き付けて独自の舞台仕立てや構成も魅力になっていました。奇抜な設定が多い分、癖もあるのですが。。

最近流行りの「伏線が仕組まれたストリーテリング」にも通じる要素があり

ボブディランの『風に吹かれて』を歌っていたら、辞書の『広辞苑』を盗むのを手伝って欲しいとアパートの隣に住む住人に持ちかけられた…この村上春樹を思わせるような奇妙で洒落た雰囲気で始まり、東野圭吾のようなミステリーの文法で切ないストーリーをなぞる構成に魅せられるのです。

作者の持ち持ち味が全方向で絶妙に生かされている作品なのですね。さらにトリッキーな作りとしては本作で言うとダブル主人公のような構成、そして過去の時系列が混ざってくる展開などがそれ。

いま現在ではアニメや漫画など、あらゆる題材に意外性のある伏線を込めるのがヒット作の1つのテンプレのようになってきていますが、最近のそれらの潮流と比べても舞台仕立てや設定が過剰に盛られていないシンプルな構成のために読みやすいのも魅力です。

非常に身近で平凡な主人公の日常が思いがけぬ突飛な事件に巻き込まれ、切ないストーリーと現実的でありながら、少しほっこりする結末…体感は一つの青春小説を読み終えたような読後感。著者の作品の中でも一際インパクトのある作品でした。

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