深夜に思わず見入ってしまうような難解な不条理劇…決して分かりやすい筋書きがある訳でもない、心を震わせるような名シーンが挿入される訳でもない、しかし多くの考察の余地を残すトリッキーな映像と見る者の心を捉えて離さない魅力的な映像の力…そんな前衛的映画の典型のような作品を多く残したのがデイヴィッド・リンチ監督でした。
自分も内容は半信半疑でも、その映像に引き込まれるような魅力を感じる監督です。そんなデイヴィッド・リンチのエッセンスが全編に濃厚に漂っている1作を紹介します。
全編に渡って描かれる不穏なモチーフの数々
日本ではWOWOWの普及期に一役買ったとも言われる伝説のカルト・ドラマ「ツイン・ピークス」を制作し、ロードオブザリング以上に映像が困難と言われていた「デューン砂の惑星」を80年代に既に撮っていたり、その内容が物議をかもしたエレファントマンやマルホランド・ドライブなど…生涯数多くの異色作・意欲作を産み出した監デイヴィッド・リンチ監督。
1997年に公開された本作は、そんな彼のモチーフが特に強烈なインパクトで迫ってくる映画です。基本的に、この監督の映画は考察していけば辻褄が合う解釈が当てはまってきそうですが、基本的には物語の筋書きに大きな意味合いはなく、示された映像やモチーフ、雰囲気に酔いしれるのが正解だと思っています。
ある日突然主人公のフレッドがインターホンに出ると「ディック・ロラントは死んだ」といって切れる。その後家の玄関に謎のビデオテープが置かれ、とあるパーティで白塗りの不気味な男に会うと「以前お会いしましたよ…今もあなたのお宅にいますよ」と告げられる。
先に届いてビデオの中身は主人公の家の中が隠し撮られており、先の男が手にした電話で自宅に電話をかけると受話器の先からは目の前にいる男の声が聞こえる…このような不穏で不気味な導入部に何か心惹かれるものを感じる方が見れば、実に刺激的な2時間が味わえる事でしょう。
浮かび上がる夜のハイウェイを疾走するイメージ
音楽もマリリン・マンソン、ナイン・インチ・ネイルズ、スマッシング・パンプキンズ、ラムシュタインとオルタナ系バンドがズラリ、そしてOPはデビッド・ボウイこれら楽曲群をみるだけでも本作のスタイリッシュで不穏でカルトなイメージが浮かぶことでしょう。
ある男が別人に替わりまたもとに戻るという2段構えの構成、夜のハイウェイ、炎の巻き戻しカット、ライブハウスでサックスを吹きまくる男、謎のビデオ、意味もなく煽情的なセックスシーン、気味のわるい白塗りの男、修理工の青年とマフィア、2人の美女、モーテルの逢引き…などアングラな映像の断片を継ぎ合わせて作られたような物語です。
しかし、これら映像1つ1つがひたすら魅力的に撮られており、物語についつい引き込まれてしまう。そんな悪夢的な魅力がデイヴィッド・リンチの映像にはあります。50年代のレトロなアメリカの郊外のイメージと悪夢的なストーリー構成。
表層的に表に出てくるイメージはだいぶ違いますが、作品の構成的に国民的作家出る村上春樹とも実は共通点が多いのではと思っています。特定の年代に強い思い入れを示される事、セックスシーンが煽情的である事、日常を侵食する非日常が描かれる事、奇怪な人物が関わってくる事、
しかし村上春樹はやはり井戸や絵画などアート的な建造物なイメージがるのに対してデイヴィッド・リンチは夜に闇やモーテルのイメージが浮かぶのですよね。そういう意味で、本作は一番濃密に監督のイメージが形になっている映画…と言えるかもしれません。


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