音楽を題材にした映画は数多くあれど、地方の閉塞感というローカル性や地に足のついたリアル感、それらと絶妙にシンクロするラップと言う題材が絶妙にフィットし、平成半ばの地方の感じに妙なノスタルジーも感じる…そんな絶妙な空気に満ちた邦画「SR サイタマノラッパー」をレビューします。
青春映画の傑作にしえて地方映画の傑作
2000年代末に撮られ、その後数年置きに新作がつづいた青春映画。この時代、音楽ではフェスブームがあり、シネコンの整備などもあってか邦画の勢いが一時期の低迷期よりも強まり音楽を題材にした邦画やドラマが人気を博していました。
デトロイトメタルシティや少年メリケンサック、ソラニン、BECK、NANA、リンダリンダリンダ、のだめカンタービレ、スウィングガールズなどなど…その多くはバンド系や楽器系に限られ、アイデンティティの確立や人間関係の悩みを抱えながらも、ささやかながらも青春をエンジョイする系譜のものが多かった気がします。
そんな中で、同じように音楽を題材にしながらも、同時に舞台が地方であることを大きく掲げ、その音楽の題材もHIP HOPにした事が本作の特色でした。夢は大きく掲げながらも、地方のどうしようもない現実の落差や夢をかなえるのに困難な閉塞感、あまり恵まれない人間関係、昔を知ってる同級生との変な再会など、地方あるあるに溢れているのです。
青春映画や音楽でも特にパンク的な作品に似た系譜の作品はありますが、固有のローカル性を強く押し出した事と、ラップによる表現に比重が置かれている事がより特徴を際立たせています。
この時代はまた日本の閉塞感を題材にした作品や、地方と都会のギャップを描いた作品も1つのトレンドになっていました。モラトリアムやサブカル的なものと成熟の折り合いの付け方も模索されていた時期。時は失われた20年と言われ出した時期で地方は早くも衰退感が顕著に出ていた時期なのです。
理想とどうしようもない地方の閉塞感の現実
自分自身もそういうものに結構、悶々としたものを一際抱えていた時代の映画でもあるため、けっこう話にシンクロする場面も多いのですよね。目標だけは大きく掲げて、ライブを心待ちにしながらも上京するグループと対立しリセットされてしまったり、勢い込んで参じたライブは市のイベントで、お役所的な空気の落差で微妙な空気が流れてしまったり。。
そういった妙なリアルさは、音楽を題材にしたロッキーとも言えるでしょう。コミカルに描いていますが地方の日常のけっこーシビアな面から、つまらない日常までもしっかり描かれているのです。それだけでなく今となっては舞台となった平成半ばの空気に妙なノスタルジーも感じるのですよね。
そうして積み重ねた地味な描写の数々が、ラストで一気にヒートアップします。このシリーズは理想と現実の葛藤がマックスにくるクライマックで、長廻しによるライブ感溢れる終盤の展開が、毎回お約束になっていきますが、この1作目がとりわけ分かりやすくシンプルに胸に迫るものになっています。
その実、この頃多くつくられていたコメディ系映画のような軽いタッチも交えているので
そこまで悲壮感が強い訳でもなく。とにかく色んな意味で、過ぎてしまった平成の半ばの
1つの空気やあの時代の雰囲気を絶妙に取り込んでいた映画だったと思います。

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