歴史を学ぶことは未来を見る事でもある、とよく言われます。テクノロジーがどんなに進化しても人類そのものの歩みは驚くほど過去にあった事例を繰り返している事が多いからです。
現在も温暖化やAI、国際紛争に人口減少、およそ20年ほど前には既に克服したと思われていた問題は再びリアリティを持って現実的な問題として際立ってきており、半世紀ほど前には劇的に進化すると言われていた宇宙開発は解明は進めどいまだに他の天体に自由に行き来する事すらおぼつきません。
そんな人類の進歩と停滞を歴史は見事に辿ってきています。そんな人類が普遍的に持つ進歩と停滞の葛藤をドラマに含めながら濃密な内容で描いた名作を紹介します。
歴史のダイナミズムを切り取る濃密な内容
人類が進みすぎたテクノロジーを封印し、地に足のついた現実を生きるために宗教が秩序を守り、そして人類の持つテクノロジーを秘匿、あるいは封印している…
切り口は違えどこの題材は現実のヨーロッパがローマ時代の進歩の時代から、民族間の攻防を繰り返しキリスト教が国家間を跨いだ秩序を統制した中世に史実を辿るもので
エンタメの題材になる事も多いのです。切り口こそ違えど、ファイナルファンタジー10や進撃の巨人、かのガンダムシリーズも宇宙世紀~ターンエーに行きつく流れを辿れば同様の形に収まる話になっていきます。これらは現実の史実をベースにしながらも、エンタメ的な要素も多分に含んだ極めて優れたストーリーテリングを誇る作品群だと思います。
そんな中、フィクションでありながらより現実の史実に近い、人類の進化や停滞そのものに焦点を向けたアカデミック且つ、哲学的な濃密な作品が本作「チ。-地球の運動について」でした。コミックの段階で既に高い評価を得た作品ですが、アニメ版でよりグローバルに広がった作品だとも言えるでしょう。
様々な作品にも通じる人類を巡る根源的なテーマ
本作の構成でうまいのは、主人公たちが都合3世代交代していくことになります。さらにそこにエピローグ的なエピソード加わり、概ね4章構成となっています。そうすることで、実際に1つの国が興亡していくダイナミズムに近い大河ドラマ感を演出することに成功している事と、意思が紡がれていく過程をドラマティックに描く事に成功しています。
ジョジョの奇妙な冒険やドラクエ5,ロマサガ2などが近い類型の作品と言えるでしょうか。また地球を巡る観測の内容を巡って宗教と人の位置が対立するドラマはプラネテスやヴィンランドサガの幸村誠作品を、宇宙を巡る哲学的な展開はインターステラーやコンタクトなどの哲学的なSF映画を思わせる面もありました。
これだけ濃密なテーマを7巻ほどの内容で納めた点からも作者である魚豊はまさに奇才であるとも言えるでしょう。
信念を巡る物語
このアニメ(原作漫画)が描いている時代は史実のヨーロッパではキリスト教が人々の信仰を集め、世の中の真理も人の様々な営みの神の産み出した世界の中での秩序や倫理とされ教会の教えは絶対で、それにそぐわないものは「異端」として迫害、または断罪される存在として描かれています。
そんな教会が唱える宇宙感は地球の周りを星々が周る「天動説」それに対し観測によって徐々に科学的な真理を証明しようとするものたちが教会の権威と戦っていくという流れです。
戦いと言っても実際に剣を交えるような描写はわずかで、基本的には信念のぶつかり合いという流れが正しく、非常に哲学的なものがテーマになっています。
今現在も世の中は価値観が当時と同じように揺らいでいます。人間を越える知覚や膨大なデータを処理するAIが人々の生活にドンドン流入しており、便利になる一方、人間がその役割を追われる恐れや、それにより人間の価値観が非常に揺らいでいる時代。
これをパラダイムシフトの転換というようですが、テクノロジーの進化に寄って世の中の不平等や病気が解消され真理にも近づいていくという進歩的な考えと、神やあるいは自然の摂理にある程度従い、普遍的な価値観に寄って幸福に生きる事。
個人的には行き過ぎた進歩にはそろそろ歯止めをかけ持続可能な社会にいくことが現状では正しい気もしています。
しかし、この相反する2つの要素はいつの時代も対立しながら、それでも世の中はバランスを取りながら少しづつ進歩し、前よりも前進していく…と言う事を繰り返してきているのでしょう。
そんなあれこれに考えを巡らせる、非常に濃密なテーマが詰まった静かに熱い物語です。

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